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第107話

「ありがとう。……真樹、顔真っ赤だけど。」 「……見ないでください。中林さん、本当にありがとうございます。」 頭を下げると、慌てて「顔上げて!」と言われたけれど、これはけじめだ。 「在宅でできる仕事は全部やらせてもらいます!」 「専務、堂山君が無理しない程度にお願いします。」 「はい」 全部やる、と言ったのに凪さんと中林さんは首を左右に振る。 納得はいかないけれど、二人はそのまま話をしだしたから、渋々開けた口を閉ざした。 暗い話は終わり、世間話をしていると中林さんがニコニコ微笑みながら俺と凪さんを交互に見る。どことなく顔が赤い気がする。 不思議に思って「どうかした?」と聞くと、お酒をグビっと飲んだ彼女が空になったコップをテーブルに置く。 「何だか……お似合いだなぁって。専務は本当に優しいし、堂山君もそうだから、お二人と一緒に仕事が出来て嬉しいです。」 「俺も嬉しいです。……あ、ねえ、中林さん。ちょっとお酒はもうやめておかない?」 ドリンクのメニューを手に取った彼女は、多分酔っ払っている。 凪さんもそう思ったのか、「大丈夫?」と声を掛けた。 「えっ、え?お酒……専務、あと一杯。これだけ、だめですか……?」 「いいけど……もう顔が赤くなってるよ。」 「ちゃんと帰れます!大丈夫です!」 「……わかった。じゃああと一杯ね」 凪さんが苦笑混じりに言う。 それに彼女は「やったー!」と喜び、早速注文をしていた。 「凪さん。大丈夫なんですか……?」 「家まで送るしね」 「そっか。」 酔っ払って体調が悪くなったりしないか心配だけれど、当の本人はお寿司を食べて笑顔でいるのでまあいいか、と俺も寿司を口に運んだ。 *** 「中林さん、着いたよ。起きて」 車の後部席。 ぐっすり眠る彼女に声を掛ける。 運転席から凪さんが出てきて「起きそう?」と聞いてきた。 「ん……」 「あ、起きた。マンションに着いたよ。立てる?歩けそう?」 フラフラなりながらも立って歩き出した彼女。 「あっ!」 大きな声を出して振り返ったと思えば、深く頭を下げられて、俺も凪さんも目を見張った。 「今日はご馳走様でした!お二人とご飯、楽しかったです!明日からも頑張りますので、どうぞよろしくお願いします!」 そう言ってニコニコ笑う彼女に、俺も凪さんも苦笑する。 そして何も返事をする時間もなく、彼女はマンションに入って行った。 「中林さんが本当いい人すぎて、申し訳なさがすごいです。」 「うん。給料を上げてあげたい」 「もしかしたら明日、酔っ払って何か失礼なことしたかもって不安になってるかもしれないですね……。」 「そうなって謝られる前にお礼を言っておくよ。」 「お願いします」 車に戻り、自宅マンションに向かう。 さっきまではしていなかった、彼と手を繋ぎながら。

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