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第111話

*** 翌朝、目が覚めると隣にもう凪さんはいなかった。 リビングに行こうとして体を起こすと、腰の痛みに襲われる。 「っ……もう……」 暫くは在宅ワークだからといって、あんな無理な体勢でセックスするだなんて酷い。 今日帰ってきたら文句を言ってやる。 「ふぁぁ……」 時間は午前八時半。 ゆっくり朝食を取り、スマートフォンを見ると凪さんからメッセージが入っていた。 昨日は無理をさせて申し訳ないということと、今日の業務内容が書かれてある。 それにわかりましたと返事をして、いつもの始業時間にノートパソコンを開き、指示された仕事をこなしていく。 夢中になって作業をしていると、スマートフォンが振動した。 手に取って画面を見ると凪さんからの電話で「はい」と通話をしながら手を動かす。 「お疲れ様。ご飯は食べた?」 「お疲れ様です。まだ食べてません」 「え、何で?もう一時になるよ」 「え……?」 パソコンから顔を上げ時計を見ると、確かに短針が一を指そうとしていた。 「……ついさっきまで九時だったのに」 「随分集中してたんだね」 「でも、もう昼休みも終わる時間なので、昼ご飯はいいです。」 「いや、それはダメだ。今から一時間休憩しなさい。しっかり昼ご飯を食べて。そうじゃないと午後の作業効率が落ちる。」 確かにその通りだと思って、申し訳なく感じながら「わかりました」と返事をする。 「集中するのはいい事だけど、もし今後、今日みたいに昼ご飯も食べないで続けてるってわかったら、仕事の量を減らすよ。」 「……困ります」 「うん、知ってる。真樹は仕事が好きらしいから。だから、そうならないようにして。」 「はい」 パソコンから手を離し、電話を繋げたままキッチンに行く。 「ごめんね、今日昼ご飯作る時間が無くて、何も用意できてないんだ。」 「いや、そんなのいいですよ。」 唐突に謝ってきたかと思えばそんなこと。 それは凪さんがする必要のないことだから、そもそも謝られるだなんて思っていなかった。 カップラーメンを食べようとお湯を沸かし、その間にテーブルを片付けようとして、まだ違和感の残る下半身を使いひょこひょこと歩く。 「凪さんのせいで腰の違和感が酷いです。あんなに体折りたたまれるなんて思いもしませんでした。柔らかくないのに」 「ごめんね、自制が利かなくて。」 「今日が家だったからいいものの……」 「次からは真樹の苦しい体勢はさせないようにするね」 「お願いします」 そう話しているうちに昼休みは終わりの時間になり、凪さんとの電話を切った。 お湯が沸き、それをカップラーメンに注ぐ。 三分待って蓋を開け、無心で麺を啜った。

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