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第127話
「こめん、そろそろ仕事するから行くね。」
「あ、それならここ使う?俺はちょっと散歩で出てきただけだから。」
まだ残っている飲み物も持ち帰りできるし、問題無い。
立ち上がると、蒼太は申し訳なさそうな顔をしていたけど、彼が気にしなくていいように小さく笑って見せた。
「お仕事頑張ってね。無理しない程度に……」
「ありがとう。いつでも連絡してね。」
「うん。じゃあ、またね。」
蒼太と別れ、元来た道をたどって家に向かう。
今日あったことは凪さんにちゃんと説明して、昔のトラウマももう大丈夫だと伝えよう。
ドリンクを片手に家に着き、それを飲みながら凪さんに帰ってきたことを報告した。
それから蒼太の連絡先を登録して、スマートフォンを手放しソファーに寝転ぶ。
「ちょっと、成長できた気がする。」
トラウマをひとつ乗り越えて、大人になれたような、そんな気がした。
時刻はもう十一時。
キャラメルマキアートのおかげでお腹はいっぱいで、正直昼ご飯は必要無い。
けれど何か食べていないと、凪さんが怒るだろうなと思って、ゆで卵を作って食べた。
やることと、一緒にいる人がいないとつまらない。
お昼の情報番組を見ながらあくびを零す。
眠たいな……と思っていると、玄関の鍵が開く音がして凪さんが帰ってきたのがわかった。
「──ただいま」
「おかえりなさい!」
掛けられた声に返事をすると、彼は柔らかく微笑む。
「昼ご飯は食べた?」
「食べました。あの……ちょっといい事があったんです。聞いて貰えますか?」
「もちろん。ちょっと待っててくれる?着替えてくるね」
ぎゅっと抱きしめられ、顔を上げると唇が重なる。
それから着替えに行った彼を見てから、どこから話そうか……と頭を悩ませる。
トラウマのことは話しているから、今日のカフェのことだけ話せばいいか。
「お待たせ。……ところで真樹、昼ご飯は何を食べたの?」
「ゆで卵です」
「……お腹空いてない?」
「うん。大丈夫」
ソファーに腰を掛け、隣をポンポンと叩くと凪さんがそこに座ってくれた。
「それで、いい事って?」
「あのね」
蒼太に再開したこと。話をしたこと。蒼太自身も三森に困っていること。
凪さんは静かに話を聞いてくれて、話終わると頭をそっと撫でられた。
「蒼太君と話ができてよかったね」
「うん。何かあったら連絡してって言われたし、友達になれた気がする。」
「真樹がトラウマを克服できたなら一安心だ。」
大きく頷いて、彼に抱きつく。
それから手を繋いで、二人でふふっと笑いあった。
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