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第131話
***
ぼけーっと、目の前にある整った顔を眺める。
ずっとそうしていると小さな音が鳴って、それと同時に彼が動き音を立てているスマートフォンを手に取った。
「凪さん、何時……?」
「ごめん、起こした。」
「ううん、起きてたよ。何時?」
「五時」
「……意味わかんない」
何でこんなに早くアラームを設定してるんだろう。
ああ確か、昼に会食があって、それまでに終わらせたい仕事があったんだっけ。
昨日の夜には色々と我儘を言った事も思い出して、「あ」と小さく声を漏らす。
「結局お風呂には入ったの?」
「入ったよ。真樹が寝た後すぐに」
「……我儘言ってごめんなさい」
「大丈夫。可愛かったよ」
起き上がろうとした彼に抱きついて、深く息を吐く。
「今日は俺も家で仕事するので、何かあれば遠慮なく言ってください。」
「わかった。今日が終われば明日は休みだし、またゆっくり過ごそうね。」
「うん」
潔く手を離し、彼と一緒に起きて洗面所に向かう。
顔を洗歯を磨いてキッチンに立った彼の後ろで、邪魔になることはわかっていながら床に座る。
やっぱり眠たい。朝早いのは苦手だ。
「真樹ももう朝ご飯食べる?」
「……」
「おーい。真樹さん」
目の前に膝をついた彼が俺の顔を覗き込んでくる。
逞しい首に腕を回して抱き着くと、背中をポンポンと子供をあやす様に軽く叩かれる。
「もう一回寝る?」
「……朝ご飯、目玉焼き食べたい」
「作るよ」
「凪さんは?」
「俺も同じ物食べる」
グイッと立ちあがる彼につられて俺も立つ。
「卵割れる?」
「それくらいできるし」
「じゃあ目玉焼き作るのお願いしていい?」
「任せて」
手を洗って卵を受け取りフライパンを用意する。
熱したそれの上で卵を割ると、白身が広がって歪んだ形になった。続けてもう一つ割り、水を入れて蓋をする。
「凪さん、今日は会食が終わったら帰ってくるんだよね?」
「ああ。だから帰ってくるのは今日も早いけど、何かあった?どこか行きたいとか?」
「ううん。明日は休みだし、ゆっくりできるなぁって。」
「そうだな」
折角だから夜には美味しい手作りご飯を用意してお酒を飲んで、一緒にお風呂に入ってそのまま……と考えたところで、料理ができないことを改めて思い出す。
「夜ご飯は一緒に作ろう?」
「いいよ。外食でもいいけど、真樹は家がいい?」
「うん。家で凪さんとゆっくりする」
「わかった」
料理以外の雰囲気作りなら、もしかすると俺にもできるかもしれない。
それを準備して彼が帰ってくるのを待っていよう。
そう意気込んでいると少し焦げた匂いがして、慌ててフライパンの火を止めた。
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