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第145話
***
数日後、凪さんと一緒に久々に会社に出勤した。
今日は前に蒼太と約束した、話をする日。
凪さんの部屋で蒼太を待った。
隣に座る彼が、俺の肩をそっと撫でる。
「緊張してる?もっとリラックスして」
「うん。……あ、ちょっと手繋いで。」
「蒼太君に会うだけだ。聞きたくない話があるなら、外で待っていてくれたらいい。」
「でもやっぱり気になっちゃうから」
内線がかかってきて、蒼太が来たことを知らせてくれた。
緊張させないように一人で部屋の前に迎えに行き、蒼太と会うと厳しい表情をしていて首を傾げる。
「どうした?体調悪い?」
「……大きなビルに入るのに緊張した。それに、専務室に通されて……。君が番の秘書をしてるってのは聞いてたから、相手が偉い人だとは思ってたけど……ここ、誰でも知ってる会社じゃん。先に言っておいてよ」
「あ、ごめん」
「思ってないだろ。……番さんは?」
「中にいる。先に俺と話した方が緊張しないかなって思ったんだけど……。」
「もう既に緊張してる」
「だよな」
睨む蒼太に苦笑して、専務室のドアに向き直りドアノブを握ってから蒼太にもう一度顔を向ける。
「あの……話したくないことは話さなくていいし、時間はあるからゆっくりで大丈夫だし、疲れたら遠慮なく言ってね。」
「大丈夫だよ。僕も話したいことがあったから来たんだし。」
「ありがとう」
「気にしないで」
ノックをしてからドアを開ける。
蒼太と一緒に中に入れば、ソファに座っていた凪さんが立ち上がり柔らかい表情で流れる様に一礼した。
「初めまして。真樹の番の嘉陽凪です。今日はここまで足を運んでいただいてありがとうございます。」
「あ……ぁ、えっと、上住蒼太、です。真樹とは中学生の時に……。」
「真樹から話は聞いています。どうぞ、こちらに座ってください。」
凪さんを見た途端固まる蒼太。
どうやらアルファの存在感に圧倒されているらしい。
蒼太の手を引いてソファに座ってもらう。
「凪さん、蒼太がすごく緊張してるから、あんまり丁寧に話すと余計に緊張が加速すると思う。」
凪さんにそう提案すると、彼はキョトンとした顔をする。何その顔、可愛い。
「そう?ならもう少しフランクに……。そっちの方がいいかな?」
「是非、そうしてください……。」
大袈裟に首をブンブンと縦に振る蒼太に、凪さんは小さく笑った。
凪さんの隣に座り、暫く適当な世間話をする。
中林さんが飲み物を運んできてくれた頃には緊張した雰囲気も少しは柔らかくなった。
「ごめんね。そろそろ本題に移ろうか」
そうして打ち解けてきたところで、三森についての話が始まった。
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