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第146話
「真樹には話したんですけど、家に何回か来られてて、真樹の話をしろだとか、弱みを教えろだとか……。そもそもどうして僕と真樹との間にあった事を知ってるのかがわからないし、例えば昔こういうことがあったって真樹が話していたとして、それでもどうやって僕だって特定したのかもわからないから気持ち悪くて。」
「話は……ごめん。大学生の時にしたことがある。でも名前は出てないし、どんな人だとも伝えてないよ。」
巻き込んでしまった申し訳なさに頭を下げる。
凪さんが俺の背中を撫でて、蒼太は慌てて「大丈夫、大丈夫!」と言ってくれた。
「それの件に関しては真樹が悪いわけじゃないし、そもそも……僕のせいだし。というかこの前それについては和解したと思ってたんだけど……。」
「そ、それはもちろん!」
「じゃあそこはもう置いておこう。」
凪さんが落ち着いてと言って、話を変える。
中林さんが運んできてくれたお茶を飲んで、小さく息を吐いた。
「三森は他に何か言っていなかったかな。」
「何も。……ただ、僕が思うに三森は……」
「三森は、何?」
「三森は多分、真樹の事が好きだったんじゃないかな。」
「──は?」
思ってもみない言葉に口をあんぐり開けて固まる。
驚く俺を他所に、凪さんと蒼太は話を進めていった。
「それは一理あるかもしれない。真樹が好き、もしくは憧れていた存在だったなら、ここまで真樹に執拗になる理由として頷ける。」
「アルファだったから今までは雲の上の存在だったけど、オメガである今ならどうにかして真樹を自分のものにできるかもしれない。それこそ……番の嘉陽さんの前でこんなことを言うのはいけないと思うけど、無理矢理薬で発情期を起こして、攫ってしまうとか……。」
「……可能性はある。真樹には暫く家を出ずにじっとしていてもらわないといけないな。」
慌てて止めに入る。
「ちょっと待って!」と言って机を叩くと、二人分の視線が俺を見た。
「そんなの有り得ない!三森が俺を好きだったとか、憧れてたとか、そんなの……どこにそんな要素が?俺は今まで三森に優しくした覚えはないし、逆に好きだという感情を向けられたことだってない!」
「仮の話だよ。」
凪さんの手が、また俺の背中を撫でる。
「仮にそうだとして、俺なら好きな相手にこんな事しない……。まるで子供みたいだ。俺は凪さんに、凪さんが迷惑になるようなことをしたいと思わない!」
三森からのそんな感情は受け入れられない。受け入れたくない。
好きだなんて感情を向けられたって腹が立つ。どうせ俺を想ってくれるなら、幸せを願ってほしい。
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