183 / 195
第183話 蒼太と洋哉
そうして外食を済ませ、帰路に着く。
お腹いっぱいになったことと、お酒も飲んだことで気分がいい。
知らない間にまた手を繋いで歩いているのも、なんだか心地良かった。
「家まで送るよ。」
「大丈夫だよ。一人で帰れる。ヒロくんの家は反対方向でしょ?」
「でも蒼太の顔、お酒のせいでほんのり赤くなってるから、変な奴らに声掛けられるかもしれないよ。俺は嫌だな、そういうの。」
「ん、じゃあ、家まで送ってくれる?」
「もちろん、喜んで。」
駅まで歩いて、いつもの電車に乗る。
空いている席に座ると眠気が襲ってきて、頭がカクンカクンと揺れた。
あと一駅、と言ったところでパッと目を覚ます。
駅を確認しようと視線を彷徨わせていると「大丈夫?」と声を掛けられて驚いた。
「ヒロくん……ぁ、そっか。送ってくれてるんだ」
「うん。気持ちよさそうに寝てたけど……。まだ寝惚けてる?」
「ごめんね、もう起きた。」
「よかった。もう着くから寝ちゃだめだよ」
「うん」
ふわふわ欠伸をして、次に着いた駅で降りる。
手を引かれながら改札を通り、家まで向かう間は特に話はしなかった。
「蒼太、大丈夫?」
「うん。……星、全然見えないね。」
「星?見たいの?」
「夜にたまに空を見た時に、星が見えるとちょっと嬉しくない?」
「うーん。それはわからないな。あんまり興味が無い」
「そっか」
部屋の鍵をヒロくんに渡して、ドアを開けてもらっている最中、空を眺めていると酔っていると思われたのが心配されてしまった。
部屋に入り、手を洗ってリビングの床に座る。
「蒼太、大丈夫そう?これ、水飲んでおいで。もし明日体調悪かったら困るだろうし」
「ありがとう」
コップに水を入れて持ってきてくれた彼。有難くいただいて、コップを空にした。
「じゃあ俺は帰るね。お風呂入るなら気を付けるんだよ」
「何から何まで、ありがとうございます。ヒロくんも気を付けて帰ってね。」
「うん。あ、ねえ蒼太」
「んー?」
隣に座った彼が、突然顔を近づけてくる。
驚いて目を見張ると、ぎゅっと手を握られた。
「キスしてもいい……?」
「っ!」
「あ、まだ早い?」
「……ぅ、ううん、早く、ない……」
そう言いつつも、心臓はドキドキとうるさく音を立て始めた。
視線を下げていると、頬を撫でられ、どんどん顔が近づいてきて、ギュッと目を瞑り息を止める。
ちゅ、と微かに唇同士が触れて、すぐに離れた。
思わずヒロくんの手を握る力が強くなってしまう。
顔が離れてゆっくり目を開けると、ヒロくんの顔が真っ赤になっていた。
それにつられて、僕も顔がぐっと熱くなる。
「あ、ありがとうございます。」
「……いえ、あの、こちらこそ。」
何故かお礼を言われて、僕も言い返す。
何だこれ、と思いながらも胸の中は幸せで満たされていた。
ともだちにシェアしよう!