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第182話 蒼太と洋哉

着いたお店は想像していた所よりずっと綺麗な居酒屋さんだった。煙草の匂いは一切しない。 「飲み物どうする?酒飲めたっけ?」 「ちょっとなら飲めるよ。えっと……レモン酎ハイがいい」 「了解。」 店員さんが飲み物を聞きにやってきて、生ビールとレモン酎ハイを頼んだヒロくんは、店員さんが去った後、メニューを見せてくれて「何食べたい?」と首を傾げる。なんともあざとい。 「えっと……僕、カワとモモしか知らない……。」 「じゃあそれと、俺の好きな物頼むから摘む?」 「うん。ありがとう」 知らないものを頼んで口に合わなかった時のことを考えると、残しても食べてくれるであろう彼の好きなものを頼む方がずっといい。 「蒼太君はさ、どうして転職したの?」 「前の会社がブラックで。ほら、僕の性別のこともあって、環境はまあ、悪かったよね。」 「ごめん、嫌なこと聞いた。」 「ううん。今はいい所で働かせてもらってて、前と比べるとずっと過ごしやすいよ。仕事もイヤイヤしていたのが、今は進んでできるし、環境って本当大切だね。」 飲み物が運ばれてきて、ヒロくんと乾杯する。 シュワシュワと炭酸が舌先を刺激した。 「蒼太君」 「……ヒロくんさ、僕には呼び捨てって言っていたくせに、僕のことは蒼太君って呼ぶの?」 「蒼太?」 「うん。なぁに」 「……何だそれ。めちゃくちゃ可愛いじゃん。」 ビールを一気に煽った彼は、そう言ってテーブルに顔を伏せた。 「ヒロくんは僕のこと可愛いって言うけど、僕からするとヒロくんも可愛いよ。」 「俺が?」 「うん。僕の一挙一動に色んな反応してくれる。楽しくて好きだよ。」 「蒼太……は、すぐに好きって言うね。」 「あ……え、えっと、違う、そういう、ヒロくんの行動が!」 指摘されると恥ずかしくて、オロオロしていると食べ物が運ばれてきた。 「はい、一口食べて見て。美味しかったらそのまま全部どうぞ」 「いただきます」 差し出された串を一口食べてみる。 これは美味しい。ヒロくんを見て目でそれを伝えてみる。口にまだ物が残っているから話すのはやめた。 「うん。美味しかったんだね。」 「んっ、これ美味しい!ありがとう、ヒロくん!」 「あ、どういたしまして……」 僕は完全に、外で食べる焼鳥の美味しさにハマってしまった。

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