185 / 195

第185話 蒼太と洋哉

次会う時には素の自分に戻っていないと。 ──なんて思っていた僕は考えが甘かった。 「ねえ、何で避けるの?」 「ぁ……」 あれから数日、僕はヒロくんを避けに避け続けた。 というのも、顔を見ると夢の事を思い出してしまって、恥ずかしいのはもちろん、最近は触りたいという欲が出てきてしまったからである。 そしてついに捕まった。 一階のフロントで俯きながら歩いていた僕の手を掴んだ彼は、今日は絶対に逃がさないとでも言うような表情をしている。 彼にしては珍しく僕のこの後の予定を聞くことも無く、どこに行くのかも告げずにずんずんと歩いて行くから、手を掴まれている僕はついて行く他なくて、気がつけばヒロくんの自宅にお邪魔していた。 「ねえ、ちゃんと俺の事見て。何か、嫌な事しちゃった?……もしかして、キスしたのが嫌だった……?」 「ち、違う!」 ようやく顔を上げて、ヒロくんを見る。 すごく寂しそうな顔をしていて、申し訳なくなった。 百パーセント僕が悪い。ヒロくんにそんな表情をさせてしまう自分が嫌だ。 「あ、あの……引かないで、聞いてくれる……?」 「うん」 だから全部話す事にした。 避けていた理由と、その理由について謝罪しないと。 やけに生々しい夢だった事を話した。 その夢を見てしまったから、どんな顔をしてヒロくんと会えばいいのか分からなかったことと、今の僕の気持ち。 「えーっと、じゃあ、蒼太は俺とエッチしてる夢を見て、それに申し訳なさを感じて、俺を避けていた、と?」 「……うん。それに、最近じゃヒロくんを見るとその……ムラムラ、すると、言いますか……」 「へぇ。俺を見るとムラムラするんだ?」 いたずらっ子の様にニヤニヤする彼を見て、グッと唇を噛む。 「間違えた。違う。ちょっと触りたくなるだけ」 「間違ってないでしょ」 恥ずかしい。俯くとヒロくんの顔が近付いてきて、頬にキスをされた。 それから視線が絡まって、唇にも。 触れるだけのキスだけれど、緊張して胸が痛い。 「蒼太にもっと触っていいの?」 「ぅ……さ、触られる、と、嬉しい、かも……」 「かも?……こうしてキスされるの、嫌じゃない?」 「んっ!嫌じゃない……」 きゅっ、とヒロくんの服を掴む。 ヒロくんは口元に笑みを浮かべて「嬉しい」と言った。 「嬉しい?本当……?嫌じゃない?」 「嫌じゃないよ。蒼太がそう思ってくれてるのが嬉しい。ねえ、もっとキスしたい。」 「い、息ができなくて、苦しくなるのは、嫌だ」 「鼻で呼吸するんだよ。大丈夫、すぐに慣れる。」 すぐに唇が塞がれた。 少しして離れるだろうと思いきや、ヒロくんの舌が僕の唇をノックする。 薄く目を開けて彼を見ると、まるで『開けて』と言っているような目をしていて、彼のシャツの皺が濃くなるのも気にせずに手に力を入れながら、口を開けた。

ともだちにシェアしよう!