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side さくら
俺が黙り込んでいると、そいつが申しわけ無さそうに俺に頭を下げた。
「すみません…、私がいけないんです。あなたの血を頂いてしまったから…」
「…でもさ、飲んだだけだろ? どうして俺まで?」
「はい…そうなんですけど、あなたの首の所に、私の牙が刺さった訳ですよ…。多分そこから…」
「何だよそれ。そんなの有りなのか?」
「私にもわからないです…」
「とにかく、俺の事も医者が診てくれるんだよな?」
溜息しか出なかった。こいつを責めても、起こってしまった事は、なくならない。
「はい。もちろん…」
仕方が無いから、その医者が戻ってくるまで、こいつと居るしかないのかも知れない。
ちょうど、単調な毎日に退屈していたし…。こいつが家に居れば、男を連れ込んでしまう事も止められるかもしれない。まぁ、女は連れ込めなくなるけど…。
切り換えの早い俺の頭は、もしかしたら寿命が縮まってしまうかもしれない…って事を考えるのを止めて、こいつと住むんだったら、この吸血鬼を家政婦のように、こき使ってやろうと考え始めていた。
「じゃあさ、医者がどっかから帰ってくるまで、ここに住ませてやるから。お前、料理とか洗濯とかやってくれる?」
「…済みません。今まで、女性が全部やってくれましたから、私は何も…」
「あんた、何も出来ないのかよ?」
「はい…まあ」
んだよ…何も出来ない奴を家に置いとくのか? いや、でも仕方が無い、俺の命もかかっているんだ。こいつの側に居ないと、医者にも診てもらえないかもしれない。
「何か出来る事あるのか?」
「…いえ、特に…ベッドで女性を喜ばせる事位しか・・」
「てめー、そんだけしかないのかよ? 俺は、男だし、お前になんて、喜ばされたくないっての」
「私だって、あなたとセックスしたいなんて、思いませんし」
「はぁ…」
また、溜息が出た。
「じゃさ、まず、掃除と洗濯、教えてやるから」
「はい。よろしくお願いします」
「ちゃんとやってくれよ?!」
「わかりました。で、まず、何をすれば良いでしょうか?」
こいつは、きっと、俺よりすっごく年上の筈なのに、何だか俺がご主人様みたいな感じ。これは、ちょっと気持ちいいかもしれない…。
「な、お前、名前は?」
そうだよ、名前が無いと呼ぶとき困るじゃないか。
「えーと、いくつかあるのですが」
「いいや。ホントの名前なんて聞かなくても。お前は、ここでは、怜(れい)って名前ね」
「はぁ…良いですが…何故?」
「怜はね、俺の実家で飼ってた犬の名前」
「え…犬ですか?」
そう。俺の命令を何でも聞いてくれるような感じするから、お前に俺の大事な怜の名前を付けてやるよ。そうやって、機嫌よく俺の命令を待ってろよな。
「あなたの名前は?」
「俺? 朔太郎(さくたろう)。店では、さくらって名乗ってる。どっちで呼んでもいいぜ」
「では、さくちゃんってことにします」
「げ…さくちゃんかよ」
こうして、突然俺の部屋にやって来た吸血鬼・怜との奇妙な共同生活が始まるのだった。
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