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第1話 でも、ノンケなんだろ

「でも、ノンケなんだろ?」  俺の一時間にわたる恋愛相談は、親友の(かおる)の無慈悲な一言で締めくくられた。 「でもって、嫁さんがいて」 「うっ」 「それにそもそもお前、プロ棋士が大嫌いなんじゃなかったっけ?」 「ううーっ」  とどめの一撃をくらわされ、俺は六畳一間のアパートの床にひっくり返った。  俺、風間昴太(かざまこうた)二十四歳は、囲碁のアマチュアインストラクターだ。大学を卒業後、入社した塾があまりにもブラックだったため、一年で退職。その後は特技を活かして、フリーの囲碁インストラクターとなった。  そんな俺を見かねて、囲碁サロン『文月(ふづき)』を紹介してくれたのが、目の前の親友、巽たつみ馨だ。そして根っからのゲイである俺は、オーナーの文月洋一(よういち)さん(プロ棋士九段)に一目惚れしてしまったのだ。現在は、絶賛片思い中なのである。 「そこまで言わなくたっていいじゃないかよ……」  ハリネズミみたいに丸まりながら、俺は情けない声を出した。 「全部本当のことだろうが。よりによってそんな障害だらけの相手を、よく好きになるよな……。ていうかお前、そろそろ出勤じゃね?」 「言われなくても分かってる!」  馨をひとにらみしてから、俺は支度を始めた。とはいえ、俺も馨には内心感謝しているのだ。俺がゲイだと知っても、こうして友達でいてくれる上、恋バナにも付き合ってくれるなんて、こいつだけなのだから……。

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