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第17話 どれだけ単細胞なの
――クソッ。どこへ行ったんだ……。
道に出てきょろきょろ二人を探していると、慌てて会計を済ませた彰が追いかけて来た。
「昴太、待てって……。止めるって、本気?」
「当たり前だろ! お前は別に付いて来なくていいから……って、ああっ!」
ようやく見つけた洋一さんは、いずみさんをタクシーに乗せ、自分も乗り込もうとしていた。
「どこへ行く気だ……」
「――そりゃ、いい大人の男女が、食事の後に行くといえば、さ」
彰が、ぼそりと言う。俺は奴を無視して、自分もタクシーを止めた。
「じゃあな、今日はおごってもらって……」
彰に礼を言いかけて、俺ははっと気づいた。
「あーっ、タクシー代、持ってない!」
こんなことは予想していなかったので、俺の財布にはギリギリの持ち合わせしかなかったのだ。運転手の目が吊り上がる。
「お客さん! 乗るの、乗らないの?」
すると彰は、するりと先に車内に乗り込んだ。
「ほら、二人を追うんだろ? タクシー代なら持ってるから、僕も付き合うよ」
「――悪い。後で、必ず返すから」
背に腹は代えられず、俺も続いて乗り込む。二人の乗ったタクシーを追ってくれ、と告げると、運転手はますます嫌そうな顔をした。
「トラブルは困るんだけどなあ」
「頼みます! 迷惑はかけませんから!」
車が発進する。彰は、しばらくの間無言だったが、不意にぽつりと言った。
「そんなに、彼が女を抱くのが嫌なの?」
運転手が、ぎょっとしたようにミラー越しにこちらを見たのが分かった。俺は、語気を荒げた。
「そんなんじゃない! いずみさんのためだ。彼女、相当酔ってた。彼女が後で後悔するような羽目になったら、可哀そうじゃないか」
すると彰は、首を傾げた。
「そうかなあ……。彼女だって、いい年なんだから、合意の上でしょう。仮にそうじゃなかったとしても、男と二人で食事して酒を飲んだらどうなるかくらい、覚悟しておくべきだよ」
「でも、助けてあげられるものなら、助けたいよ……。それにそもそも、こうなったのには俺にも責任があるんだし」
「どうして、昴太が関係あるの?」
「いずみさん、普段は真面目な子なんだ。それなのに、洋一さんの誘いに乗るなんて、きっとヤケになってるんだよ。その原因は、俺にふられたからだ。だから、俺には止める責任がある」
彰は、呆れたように俺の顔を見た。
「君って、どれだけ単細胞なの」
「――うるさい」
やがて、二人を乗せたタクシーが止まった。
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