17 / 168

第17話 どれだけ単細胞なの

 ――クソッ。どこへ行ったんだ……。  道に出てきょろきょろ二人を探していると、慌てて会計を済ませた彰が追いかけて来た。 「昴太、待てって……。止めるって、本気?」 「当たり前だろ! お前は別に付いて来なくていいから……って、ああっ!」  ようやく見つけた洋一さんは、いずみさんをタクシーに乗せ、自分も乗り込もうとしていた。 「どこへ行く気だ……」 「――そりゃ、いい大人の男女が、食事の後に行くといえば、さ」  彰が、ぼそりと言う。俺は奴を無視して、自分もタクシーを止めた。 「じゃあな、今日はおごってもらって……」  彰に礼を言いかけて、俺ははっと気づいた。 「あーっ、タクシー代、持ってない!」  こんなことは予想していなかったので、俺の財布にはギリギリの持ち合わせしかなかったのだ。運転手の目が吊り上がる。 「お客さん! 乗るの、乗らないの?」  すると彰は、するりと先に車内に乗り込んだ。 「ほら、二人を追うんだろ? タクシー代なら持ってるから、僕も付き合うよ」 「――悪い。後で、必ず返すから」  背に腹は代えられず、俺も続いて乗り込む。二人の乗ったタクシーを追ってくれ、と告げると、運転手はますます嫌そうな顔をした。 「トラブルは困るんだけどなあ」 「頼みます! 迷惑はかけませんから!」  車が発進する。彰は、しばらくの間無言だったが、不意にぽつりと言った。 「そんなに、彼が女を抱くのが嫌なの?」  運転手が、ぎょっとしたようにミラー越しにこちらを見たのが分かった。俺は、語気を荒げた。 「そんなんじゃない! いずみさんのためだ。彼女、相当酔ってた。彼女が後で後悔するような羽目になったら、可哀そうじゃないか」  すると彰は、首を傾げた。 「そうかなあ……。彼女だって、いい年なんだから、合意の上でしょう。仮にそうじゃなかったとしても、男と二人で食事して酒を飲んだらどうなるかくらい、覚悟しておくべきだよ」 「でも、助けてあげられるものなら、助けたいよ……。それにそもそも、こうなったのには俺にも責任があるんだし」 「どうして、昴太が関係あるの?」 「いずみさん、普段は真面目な子なんだ。それなのに、洋一さんの誘いに乗るなんて、きっとヤケになってるんだよ。その原因は、俺にふられたからだ。だから、俺には止める責任がある」  彰は、呆れたように俺の顔を見た。 「君って、どれだけ単細胞なの」 「――うるさい」  やがて、二人を乗せたタクシーが止まった。

ともだちにシェアしよう!