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第72話 どうして欲しいの
「んっ、ふっ、んんっ……」
フローリングの床に横たわった俺の上半身を、彰の舌が這い回る。俺は必死で歯を食いしばって、ともすれば漏れそうになる声を押し殺していた。
――こんなことになったのも、こいつのせいだ……。
慌てる俺を挑発するように、彰は『そんなに声を抑える自信が無いの?』と言いやがった。その余裕たっぷりな態度がムカついて、俺は思わず『声くらい我慢してやるよ』と言ってしまったのだ。つくづく、自分の負けず嫌いな性格が恨めしい。
――しかも、だ。
「これくらいなら、昴太でも声を我慢できるよね?」
そう言って彰が愛撫するのは、俺の首筋や脇腹、脇の下など、直接快感には結びつかない場所ばかりなのだ。俺が胸が弱いことを、彰はよく知っている。乳首を嬲れば俺が一発で陥落するのは分かっているくせに、奴はそこにはいっこうに触れようとしないのだ。
――それなのに。
湧き上がってくる快感は、予想以上だった。ちょっとでも油断すれば、口から悲鳴が迸りそうになる。
――まるで、全身が性感帯になったみたいだ……。
「昴太、気持ちよさそうな顔してる」
彰はクスッと笑うと、俺のハーフパンツに手をかけた。止める間もなく、奴はそれを一気に下着ごと引きずり降ろした。
――止めろ!
俺は、心の中で叫んだ。下まで触られたら、もう声を我慢するなんて不可能だ。
――卑怯だぞ……。
しかし彰は、俺が予想していた部分には触れなかった。奴はゆっくりと、俺のふくらはぎから足先にかけて、舌を這わせ始めた。
「んっ、止めろよ、汚いだろ……」
「昴太の身体で汚いところなんて無いよ」
彰は、俺の足の指を口に含むと、音を立ててしゃぶり始めた。ぞわりと、快感が背筋を走り抜ける。身体の中心は、すっかり張り詰めて痛いくらいだ。
――触って欲しい。でも……。
「どうして欲しいの?」
俺の足先から口を離して、彰が尋ねる。俺は黙って、かぶりを振った。
「腰、揺れてるよ。ここも、ふるふる震えて、涙を流してる」
すっかり勃ち上がった俺のそれの上に、彰が手をかざす。奴は、ゆっくりと手を動かして、扱くような動作を始めた。ただし、決して触れない距離で。遂に俺は、微かな喘ぎを漏らした。
「んっ、くぅ……」
彰はそれに顔を寄せると、滲んだ先走りを舌で舐め取るような仕草をしてみせる。奴の吐息が先端にかかるのを感じた途端、俺は耐え切れずに口走っていた。
「彰っ! 直接触って……」
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