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第98話 俺ならそんな仕打ちはしないよ ※閲覧注意
※ご注意
このページには、近親相姦を連想させる表現があります。苦手な方はご注意下さい。
――DVとか、絶対違うって。教育業だと、そういう発想になるのかな……。
まあ俺だって教育業なんだけど、なんて考えていると、影山さんは俺の隣にスッと腰掛けた。
「大体、昴太くんはただ友達に親切にしただけだろう? それをそんな風に頭ごなしに怒るなんて、彼氏、冷たすぎない?」
「そんなことないですって。あいつは、俺のためを思って怒ったんであって……」
「俺なら、そんな冷たい仕打ちはしないよ?」
――え。
思わず俺は、影山さんの顔を見上げた。次の瞬間、俺は彼に口づけられていた。
「――っ! 何するんですか!」
俺は、反射的に影山さんを突き飛ばした。
「ごめん。つい、我慢できなくなって……」
「ついって……」
影山さんは、俺の顔を真剣な表情で見つめた。
「昴太くんが、好きなんだ。大事にしたいと思ってる。彼氏がいるのは知ってるけど……。どうかな、考えてみてくれないかな?」
――まさか、そんな風に思われていたなんて。
俺は呆然とした。
――ゲイの俺をあっさりと受け入れてくれたのは、自分もそうだったから? 何で、気づかなかったんだろう……。
「すみません。俺、彼氏を愛してるんで。だから、徹郎さんの気持ちには応えられません」
――これ以上ここにいたらまずい。
俺は鞄をつかむと、急いで部屋を飛び出した。影山さんは、そんな俺を引き留めようとはしなかった。
俺は、走ってマンションに帰り着いた。頭の中は、まだ混乱していた。
――やっとゲットした仕事なのに。これから、どんな顔して影山さんと顔を合わせたらいいんだよ……。
彰の懸念がまさか現実になるとは、などと考えながら、玄関の鍵を開ける。匠さんはもう寝ているのか、リビングは真っ暗だった。
――起こさないようにしようっと。
忍び足で自分の部屋に入ろうとしたその時、俺は、匠さんの部屋から何やらうめき声が聞こえてくるのに気づいた。
――もしかして、また発作かな?
何だか心配になり、俺は彼の部屋の様子を伺った。ドアは、隙間が少し空いていた。そこから覗くと、匠さんはベッドの上で布団にくるまっていた。身体が不自然に揺れ、うめき声に交じって荒い息づかいが聞こえる。
――あ。
俺は、合点した。匠さんだって男だ。そういう行為にふける時だってあるだろう。見なかったふりをして去ろうとしたその時、俺はドキリとした。匠さんは、荒い息の中で、はっきりとこう呟いたのだ。
「兄さん……」
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