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新入生

桜咲く… 宮原は真新しい灰色のブレザーを手に通し、私立蒼敬学園の入学式典に出席していた。 校長、会長、理事長、などなど、お偉いさん達のスピーチが次々と続く。 『…眠っ……まだあんのかよ…』 宮原は首を何度も左右に擡げながら睡魔と必死に戦っていると、隣の席に座っていた同級生がフリスクを差し出してきた。 「食べる?」 宮原は「ありがと」と言い、フリスクを数個貰うと口の中へ放り込む。 独特のミントの味に、半分閉じていた目を何とか開けてみる。 「早く部活動のプロモーションが始まってくれないかなぁ… サッカー部が見たいんだけど…」 宮原が小声で呟くと隣の席から「お前もサッカー部希望なの?」と訊かれる。 「勿論! 蒼敬学園のサッカー部に入りたくって進路を変更したくらいだからね!」 『そして、憧れの沢海先輩と同じピッチに立つって、決めているんだ! 絶対に譲れない!』 宮原の無邪気な子供のような破顔に釣られて、笑顔になってしまう。 「ーーー多分、同じクラスメイトだよな? オレ、松下。 宜しくな」 「オレ、宮原。 式典が終わったら一緒にサッカー部へ行こう」 「あぁ」 視線を外した松下を宮原は横目で見てしまう。 『サッカーのポジションは何処なんだろう?』 高校1年生ながら、座っていても十分に分かる身長の高さと全身の骨格、そしてスラリと伸びた筋肉。 宮原はどんなに努力をしても、自分には手に入れられない身体に少しだけ嫉妬してしまう。 宮原自身もサッカー選手としては、体脂肪率を比べてみても筋肉量はある方だ。 だが、試合中にボールの競り合いでボディコンタクトとなると、どうしても当たり負けをしてしまう事があり、それは自分でも自覚はしていた。 『せめて、身長は180cmは欲しいよな…』 宮原は小さく溜息を吐いた。 ステージ上ではサッカー部のプロモーションが始まろうとしていた。 部長の「藤本」先輩が挨拶すると、よくある「サッカー部に是非入部してください!」のようなお願い事をするのかと思いきや、全く違った。 「蒼学サッカー部です。 うちの部活は誰でも入部を受け入れるという訳じゃありません。 50m走6.5秒以上、10km走40分、このタイムより遅い人は他の部活を選んで下さい。 オレ達、蒼学サッカー部は夏から始まる予選、高校サッカーに向けて去年取れなかった優勝を狙います。 オレ達と本気で国立に行きたい人。 入部を待っています」 藤本の一歩後ろに下がって、蒼学サッカー部のレギュラーがユニフォームを着用して、整列している様に宮原は身震いをした。 藤本の近くに沢海のユニフォーム姿を見つけ、感嘆の声が漏れてしまう。 「カッコいいなぁ…」 松下は夢見心地な宮原を尻目に念の為に確認をする。 「なぁ、宮原。 お前、さっき藤本先輩の基準タイム…… 走力はクリアしているよな?」 松下は宮原の身体能力がどれくらいあるのか全く知らないので、宮原を外見で判断してしまう。 宮原も松下に全身を上から下まで視線を流されてしまい、一瞬、ムッとしてしまう。 そして、松下へ釘を刺しておく。 「オレ、クラブ活動でサッカー部はなかったから、中学3年間は陸上部に所属。 中学2年の時に短距離から長距離にコンバートしたんだけど。 短距離のタイムは……」 と宮原の言い方に明らかに刺がある。 松下は「ゴメン」とすぐに謝り、「オレが結構、ギリギリかも…」と笑った。 宮原は吹き出してしまい、松下の腕を小突いた。 「ダメじゃん!それ!!」

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