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大塚先輩
この日の午後のトレーニングはトップチームとサブチームの紅白戦をすることになった。
当然、放課後の部活中でも宮原は自分のイメージしていることと、実際の身体の動きが思うように取れず、何度も自分の足を引っ掛けてしまう。
相手のボールを奪おうとしてもタイミングが遅れてしまいファウルを取られ、自分のボールをキープしようと安易なポジションにボールを置いて簡単に相手に渡ってしまう。
その度に同じチームメイトから野次を飛ばされる。
「…ちっくしょ……」
あまりの不甲斐なさに、自分自身に苛立ってしまう。
絶妙なタイミングでボールを持った相手に宮原がスライディングをした瞬間、タックルに入るスピードが速すぎてしまい、宮原の足の裏が相手の膝に入ってしまう。
宮原はその足を引いたが、相手が膝から倒れてしまい、宮原はイエローカードを貰ってしまう。
「ーーーってえ。
宮原!
そんな危ねぇスライディングするなよ!」
爪先を反らし、筋肉と伸ばしながら、宮原を叱責した。
「すみません!!」
宮原は慌てて頭を下げ、謝罪する。
途中でゲームが止まってしまい、ピッチサイドで給水する者、次のプレイに備えて呼吸を整えている者、同じチーム内でお互いの動作を確認する者と、チーム全体の集中力が一瞬途切れてしまう。
トップチームに入っている沢海もユニフォームで顔の汗を拭きながら、宮原を見詰めていた。
その様子に宮原は益々、自己嫌悪に浸ってしまう。
『ーーー何、やってんだよ…!
しっかりしろよ…』
トップチームのボランチに入っていた藤本が宮原の元に歩み寄り、声を掛ける。
「ーーー宮原。
お前、集中してプレイが出来ないのなら交代しろ。
みんなが迷惑する」
藤本はベンチに座っている監督へ向かい、宮原を控えメンバーに交代をするように指示を出してもらう。
宮原は交代メンバーに肩を叩かれ、ピッチの外へ出るように促される。
あまりの自分の情けなさに宮下はベンチに下がるとバスタオルを頭から掛け、俯いて溜息を吐く。
全身から力を抜くと、先程の接触プレイで痛めてしまったのか前に左膝を痛めた同じ箇所が引き攣り、足先の稼働を両手で押さえる。
『ーーーっつ……痺れてきた…』
怪我で別メニューだったゴールキーパーの大塚が練習を終えてベンチに戻り、宮原の隣に座る。
大塚はグローブの手首に巻いていたテーピングを取り、ちらりと宮原の表情を覗き込んだ。
「うちの美人ボランチさんに怒られたの?」
「ーーーーー」
「宮原もさーーー藤本と2人して怖い顔して、何やってんの?」
半分、呆れた声を出して話す大塚に宮原はベンチで膝を抱え、もう一度溜息を吐く。
「オレが。
オレが悪いんです。サッカーに集中していなかったから」
「まぁ、確かに。
あんなボケッとした状態でサッカーしていたら、お前も怪我していただろうしな。
藤本の判断は正しいな」
「ーーーすみませんーーー」
大塚はバスタオルごと宮原の頭をぐしゃぐしゃに乱し、日焼けした顔でニコッと笑う。
「わっ……ちょっと、大塚先輩!」
バスタオルを外し、宮原が顔を出す。
大塚が宮下の足元に置いてあった給水ボトルを手に取り、一口飲む。
「たまにはいいだろ。
外から自分のいるチームを見るっていうのはさ。
自分がどういうプレイしているのか、相手がどういうプレイをしているのか、客観的に分かって。
オレはポジションがキーパーだから常にゲームを俯瞰で見ているから、分かるけど。
ーーー宮原はまだそれが足りないんだよ」
どちらかというと大塚は、普段は軽々しい言動ばかりで、あまりサッカーに対して自分の考えを聞く事も、伝える事も今まで機会がなかっただけに、宮原は大塚の言葉に耳を傾けた。
真剣な表情で大塚が話し続ける。
「サブチームからトップチームに上がれない、技術的、体力的、精神的にサブチームのレベルでしかない、怪我がなかなか完治しない、色々な理由でベンチから『トップチーム』を見ると思う。
でも、そこで腐らずに自分に何が足りないのか、自分がどうすればいいのか、もう一度考える時間が出来たって思えばいい。
ーーーまぁ、お前の場合はボールの動き、人の動き、自分の動きじゃなくて、さっきから沢海ばっかり見てるからなぁ。
ーーーまずそこからどうにかしろよ」
大塚はそう言って、宮原にウィンクする。
宮原は突然、沢海の名前を出されてしまい、赤面し、ベンチで身体を小さくしてしまう。
『オレーーー
ーーーそんなに沢海先輩の事見てた?…』
大塚は声を出して笑い、あからさまに動揺する宮原を後目に「図星かよ!」と更に宮原を笑う。
「ーーすみません……」
「宮原が沢海を見てばっかりいるから、沢海も宮原ばっかり見ているしな。
ーーーほら、今だって」
大塚がピッチ内を指差し、宮原もその指の先へ視線を送ると沢海が2人が座っているベンチを見ていた。
沢海は直ぐに目を逸らし、前を向く。だが、ボールが前線に動くとまた視線を宮原に向ける。
沢海のあからさまな態度を受け、宮原はまたバスタオルを頭から被った。
『全然、分からなかった…
沢海先輩、オレの事を見てる?』
「ちょっと、面白い事してやろうか?」
大塚が子供のように目を輝かせ、宮原が頭から被っているバスタオルの端を捲り、そのまま中に入り込む。
至近距離で大塚の顔が迫り、宮原は慌てて顔を背ける。
「なんなんですか!もう!」
「いいから、ちょっと待ってみ?」
その瞬間、ベンチにシュートのような鋭いボールが飛び込むと、側にあった練習道具が入っているコンテナをひっくり返し、ガラガラと盛大な物音を立てる。
あまりにも強い力の負荷が掛かったのか、プラスチック製のコンテナは真っ二つに割れて無惨な姿になっていた。
宮原はびっくりして椅子から半分身体を落としてしまう。
「沢海ーーー!!
何処にボール飛ばしてんだーーー!!」
久々に監督の怒声がピッチに響き渡る。
大塚はピッチに手を振り、目に涙を浮かべながら笑いを必死に堪えている。
「ーーーだろ?
分かり易い奴」
沢海は不機嫌だという事を全面に顔に描いて、ピッチに立ち、そんな沢海の行動に宮原ははにかんだ。
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