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心の欲求と身体の欲求

その後の朝練で監督と藤本キャプテンに挨拶をすると、今日の朝練は体調のことも考えて軽い走り込みで終わるように、という注意を受ける。 宮原は1人、ピッチの外周を5周、10周と続けて走っている。 徐々に息が上がってくる頃には、無心で余計な事を考えなくなり、時折、ピッチの中から沢海の声が聞こえると無意識に姿を探してしまう。 ーーー同じチームメイトに指示を出す声。 ーーー相手にポジションを取られないように身体を張る姿。 ーーー休憩中に見せる屈託のない笑顔。 何時もと同じ事、普段と何も変わらない事なのに、沢海の行動、全てが気になってしまう。 ふいに沢海が周囲から視線を外し、宮原と目が合う。 宮原は沢海に見透かされたように囚われ、目が離せなくなってしまう。 沢海は宮原に優しく微笑み、親指を立てる。 宮原は沢海の行動に、慌てて目を逸らしてしまう。 ーーー自分が特別ではないことは分かっている。 でも、特別でありたいと願っている自分がいるのかもしれない。 心で身体で全てを欲してる自分がいる。 『ーーー好きだーーー』という言葉だけで、自分の中にある蟠りが溶けてなくなってしまう。 ーーーオレは沢海先輩が好き? ーーーオレは沢海先輩が好き? ーーーオレは沢海先輩が好き…なんだと思う。 考えれば考える程、答えはひとつしか見つからない。 ーーーオレは沢海先輩が好きなんだ。 朝練を適度に切り上げると、誰もいないサッカー部の部室へ入るのを躊躇い、足早に教室へ戻る。 暫くすると朝練を終えた松下が教室に戻って来た。 「よっ。おはよ。 どうした? 別メニューだったけど、まだ体調が戻ってないのか?」 「ん?ーーーあぁ、大丈夫だよ。 午後のトレーニングには全体練習に参加するよ」 「なら、いいんだけどさ。 ーーーあれ?」 松下の視線が宮下の絆創膏だらけの指を注視する。 サポーターではない、明らかに怪我の影響で何枚もの絆創膏を指に巻いているのをジッと見詰める。 宮原は指を折り曲げて隠したが、全て見られてしまっている。 でも、そのことに対して何を聞くわけでもなく、先程の柔和な表情とは違い、表情を少し固くしてもう一度同じ事を確認する。 「おい、宮原。 お前、まだ体調が良くないんじゃないか? ーーー大丈夫か?」 ふいに松下が宮原の額を触り、体温を確かめようとする。 「ーーー!ーーー」 宮原に手を払われ、過剰な程に驚かれてしまう。 「ごめん…ちょっとビックリして…… ーーー本当、大丈夫だからさ」 宮原は絆創膏だらけの指を噛む。 無意識の行動なのか、絆創膏から血が滲んできている。 松下は苦笑いをすると、下を向いている宮原の頭をコツンと叩いた。 「悪りぃ…いきなり触って。 体調が悪くなったら我慢しないで、言えよ。 オレ、監督とキャプテンに説明しておくからさ」 「ーーーん。ありがと」 午前の授業、お昼時間、午後の授業と時間が経過していく。 時折、宮原は考え事をしてぼんやりしてしまうのか、授業中、休み時間中と何度か松下が声を掛ける。 その度に宮原は何度も同じ事を聞き返すので、松下を呆れさせていた。

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