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第5話

ゆっくりと離れていく体 机の上に置いてあったティッシュの箱を手繰りよせて お互いのモノを簡単に拭いて ティッシュをゴミ箱の中に投げ入れる 「離れてる間 他にいい人とか出来なかったの?」 俺の下着を拾いながら 当たり前のように聞く 「ないね 全く。 だって お前以上に好きになれる人なんかいないよ」 それを受け取って 俺のほうに落ちていた こいつの下着を拾って渡してやる 「あはは、言うねぇ かっこい、、」 切なそうに言うから泣きたくなる 「、、、ずっと 会いたかった」 縋り付くように 背中を抱きしめる 部屋がやっと涼しくなってきた 背中の汗が冷えるのを感じる 「うん、俺もだよ」 俺の腕をぎゅっと握る 「毎晩 毎晩、会いたくて 死にそうだった」 「ふふっ死なないで欲しいな」 「今だって すごく 好き、」 「うん」 「好きで、好きで、好きで、、、」 側にいたい、でも それは 言ってはいけない と思うから 言葉を探すけど それ以上の言葉は見つからない 「うん、俺も 好き、ずっと ずーっと 好き、、」 こんな時でも 泣いた顔はお互い見られたくないなんて ほんとに 男って奴は 大きく深呼吸して 抱きしめたこいつの 背中が 上下する 「でもね、もう俺のことは もう ゆっくり忘れて」 「出来ない 一生 お前だけなんだよ、忘れられずに生きていく」 こっちを向かせて 抱きしめる 背中に回る腕はこんなに熱くて 錯覚させる 「もー、そんな未亡人みたいなこと言ってー」 「だって そうだろ、、、」 そう言うと 静かに笑った だって こいつは 2年前に死んでいる 2年前の冬、不慮の事故 突然目の前から愛する人が消えた 男同士だから 付き合っていることは人には言えなかった でも ルームシェアだと言って 一緒に暮らしていたし 結婚こそできないけれど お互いを支え合って生きていたし そうやって生きていく約束もしていた 本当に本当に愛していたから 俺も死んでしまいたかった それでも こいつの分まで 生きなきゃいけない 良くわからない倫理観と正義感で なんとか 今日まで生きてきた 何を見ても こいつを思い出す 何をしてたって いつでも どこかに 俺を待っている人がいる気がして もしかしたら 人混みの中に ひょっこりと手を振って現れるかもしれない なんて いつでも探してしまう 「少しづつ時間が解決する」そんな風に周りは言うけど そもそも 解決するような問題すらない どうして 今更 こんな風に 俺の目の前に こいつが出てきたのかも分からない オカルト、幽霊なんて信じてはいないけど 目の前にいるこいつは生きてはいない 俺は こいつが骨になった所までしっかりと見届けている でも こうして 目の前に現れたことは事実だ 「もう 離したくない」 それは 無理なんだろう と 知っていて言った 幽霊が現世に出てくるセオリーなんか知らない でも 長くは続けられないんだなと言うことは分かる 第一に こいつが そんな空気を出している 「ごめん」 頭を撫でる手は優しくて それが余計に辛い 「また 会えるの?」 「どうかな?」 「これが 最後?」 「どうかな?」 「ずっとこうしていたい、それなら 俺が、、」 死ねば一緒にいられる? そう言おうとすると 「ダーメ!それは ダメそう」 顔を上げると 涙を溜めて笑う 「じゃあ 約束!お前が死ぬまでに あと一回は必ず逢いに来る!それでどう?楽しみにしててよ」 それは 嘘なのか本当なのか分からない 子供騙しだ こいつが言いそうな事 死んだ人間が この世にやってきて 会うことができる システム自体 良く分からないんだから 「俺は幽霊なんて信じない だってもし自分が死んだら 好きな人のそばにいたいから 他人なんかどうだっていい 自分の好きな人の所にずっといるって そう思う」 何を話すんだろうって 顔で 俺の話を黙って聞く 「だから、ずっと一緒にいるんだよな? ここで 別れても そばにいてくれる?」 それは 希望だった 願いだった そうあって欲しい 言ってしまえば そうなるような気がした 必死に言えば 少し違うな、って顔しながらも 微笑む 「そうだよ、うん いつも そばにいる」 その言葉だけで 安心する 俺の冷えてきた背中を触って 旅行カバンから Tシャツを引っ張り出して着せる 「あ、これも 俺のだ ふふっ」 こんな状況なのに 明るい声を出すから つられて 少し笑うと 少しだけ安心した顔して 手を握る 「それにさ ちゃんと幸せになってくれないと 俺 安心して成仏できないよ?」 「なら 一生 幸せじゃ無くてもいい そばに居て」 その手を握ると 同じくらいの強さで握り返されてから手が離れる 床に落ちた 浴衣を拾って 羽織ると 立ち上がって 帯を適当に巻いて 腰骨の辺りで 適当に結んでから 窓ガラスに映った自分を見て 髪型を手櫛で整えた 「幸せでも 側にいるよ だって 好きな人の幸せそうな顔見たいよ? 自分のせいで 泣かせたくないのは 生きてても死んでても同じでしょ?」 「いつか 幸せになるのかな?」 「なるよ」 「お前がいないことに慣れるのかな?」 「慣れるよ、慣れて欲しくないけど」 切なそうに少し笑って 「さてと、もう帰るよ」 と 言うから 抱きしめた これで最後かもしれないと思うと 切なくて 離したくなくて 暫くお互いそうしていたけど 抱きしめられた 腕の力が緩んで 体が離れていく 「お前も 俺も 往生際 悪すぎっ 門の外まで送ってよ」 俺の目元を親指で拭って 一緒に部屋を出る 玄関をそっと抜けて 家の外に出ると 消えるのかと思えば 「またね」と 手を振って 神社の方に歩いて行った 角を曲がるとき 追いかけようとしたけど あいつが 一度だけ振り向いて 手を振ったから 追いかけるのをやめた 自分のマンションに帰ってくると 部屋の中は 出て行った時そのままで 冷蔵庫に貼ったあいつの写真に 「ただいま」と 言う よその家の匂いがする自分の着替えを クローゼットに仕舞おうと 引き出しを開けて 手に取る 出てきたのは もう黄ばんでいて相当古い キラキラのスーパーボール 元はと言えば あいつが 昔 何かのお祭りで 取ったものを 俺にくれたものだった

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