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第65話
「それじゃあ、行ってきます。」
「いってらっしゃい。気を付けて。」
毎朝交わされる新婚夫婦みたいな会話に
最初は戸惑ってたけど
慣れって恐い。
今じゃ何の戸惑いもなく言葉が交わされ唇が重なる。
優しい唇が名残惜しそうに離れると玄関のドアが閉まる音がした。
そのすぐ後に聞こえる鍵の締まる音を聞いて
俺は当たり前のようにリビングに戻る。
慣れない頃は壁伝いに歩いてたんだけど
今はさも見えてるように歩けるようになった。
俺の世界が闇に変わる前から住んでる部屋。
そこは光の世界だった頃から何にも変わってない。
敢えて時を止めたその場所にあるお気に入りのソファーに腰を下ろした。
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