1 / 2
プロローグ
猫じゃらし草原の中にぽつんと建つ一軒家の上で、風見鶏がくるくると回った。
紺碧の空に錦糸卵みたいに星が流れると、猫じゃらしもきらきらと輝く。
「新郎、黒柳」
ハチワレ猫が、ぴっしりとしたタキシードの毛並みを撫でつけて咳払いする。
「はい」
黒柳はハチワレ猫の神父を見上げる。
「なんじ、健やかなるときも、病めるときも、新郎白玉のことを愛し続けることを誓うか」
「はい、誓います!」
黒柳は横目で白玉を盗み見る。
白玉のふわふわした焦げ茶の髪が風で揺れる。まだ学生と言われてもおかしくないほどに幼い顔立ちの白玉は、れっきとした成人男性だと黒柳は知っている。
「新郎、白玉」
「は、はいっ」
白玉が少し慌てたように背筋を伸ばして返事をする。
白玉の瞳に望月が映る。
「なんじ、健やかなるときも、病めるときも、新郎黒柳のことを愛し続けることを誓うか」
「はい!誓います……!」
白玉が、長い睫毛を伏せて微かに微笑む。
その横顔があまりにも綺麗で、黒柳は息を飲む。
黒柳は服越しの細い肩を掴むと、白玉の柔らかい唇に自分の唇を重ねる。
わぁ……っと猫じゃらしが歓声をあげる。白鳥は翼を広げて振り続け、リスはクルミを叩いて喜びの音をあげる。
黒柳が唇を離すと、白玉は静かに目蓋を開く。
その瞳は蜂蜜で煮込んだ望月だ。
その頬は紅花が咲き誇っている。
白玉は綺麗だ。
黒柳は、白玉ほどに綺麗なにんげんを見たことがない。
黒柳の瞳に、夜露のような涙が溜まって落ちた。
あぁ、白玉は綺麗だ。
本当に、綺麗だ……。
ともだちにシェアしよう!