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口説いた相手は年増のオカマ? 1

 五月も半ばを過ぎた、金曜日の夜。 『花金』などという、いにしえの死語で表現したくはないが、一週間の仕事を終えた週末の夜は開放感に満ちあふれている。  S駅前の飲み屋街には大勢の勤め人たちが繰り出し、あちらこちらでワイのワイのと、野太い歓声が聞こえており、そんな居酒屋のうちの一軒、そこでの座敷席では、こちらも開放された若いサラリーマンの一団が仲間同士で酒を酌み交わして盛り上がっていた。  真新しいスーツがいまひとつしっくりこない、学生臭さの抜け切らない彼らはS駅を最寄りとする、江崎工業株式会社の大卒新入社員・総勢十名。ちなみに女性は含まれておらず、全員が男性社員である。  四月の入社式後から続いていた新人研修が今日で終了、各自の配属先も先ほど発表になった。次の月曜からはそこでの勤務が始まる、その前の同期仲間の打ち上げというわけだ。  皆それぞれに、これからの業務に対しての希望と不安を酒の肴に語り合っていたのだが、そんな仲間たちとは一線を画するかのように、一人の男がテーブルの隅に陣取っている。  男はビールが中途半端に残った瓶をかき集め、自分のグラスにすべて注いでは一気にあおるという、無茶な飲み方をしていた。 「……で、『僕たちはこの研修で学んだことを存分に生かして』そっから何だったっけ? なぁ、システム部配属の本多クン」  無茶飲み男の、ギラギラとねめつけるような眼差しに、本多と呼ばれた一人が弱りきった表情をしてみせた。

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