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自己嫌悪
次の日は学校を休んだ。初めて学校をサボったのだ。何回も雪人から電話やLINEが着ていたけれど、どれにも反応なんてしなかった。終いには通知音を消していた。俺は弱い人間だ。不安が溢れ溺れ沈んだ。極端な話、退学か転校すらも頭を過ぎった。
「…俺、雪人に不満なんてなかったのにな。ないと思い込んでただけで不満あったのかな」
天井を見上げながら呟く。
「雪人」
天井に手を伸ばす。ツーっと涙が零れた。昨日逃げ出した事で、もう雪人とどんな顔で会ったら良いのか、どんな気持ちで会ったら良いのか、どう接したら良いのか解らないまま時計の秒針が鼓膜に響いた。時だけは過ぎていく。
暫くしてチャイムが鳴った。こんな時間に宅配か?等とぼんやり思いながら目を閉じる。何回も鳴るチャイム。
「あれ?母さん居ないのか?」
買い物にでも出掛けたのだろうか…またぼんやりと考えた。俺は出る気はなかった。居ないと解ればチャイムも鳴り止むだろ。今日の俺は誰にも会いたくないんだ。しつこく鳴るチャイムの音に次第に苛立ちが募る。部屋から外に聞こえるだろう大声で俺は叫んでいた。
「っるせえんだよ!!!!!!」
ピタッとチャイムの音が止まった。諦めたか。大きく深呼吸をしてチラリとカーテンを開けて外を見た。そこに居たのは雪人だった。
「まだ学校のはずじゃ…」
そこでハッとして携帯を見た。山のような着信とLINEのメッセージ。LINEを開く前に見える最後のメッセージは
『ごめん』
だった。
何がごめんなのか解らない。俺は雪人のあんな後ろ姿は見た事がなかった。悲しそうで辛そうで歩幅も小さい。チラチラとこちらを振り返っては俯いてまた歩き出す。
「アンタこそ…誰だよ…」
呟きながら大粒の涙が零れた。時折腕が上がり顔辺りで何かを拭いている。
「もしかして…泣いてるの…?」
あの雪人が?信じられない光景だった。その光景を見て昔を思い出す。雪人の恋愛への諦めや不信、告白した時に言われた言葉、付き合ってから一日も欠かさず会っていた事。雪人が本当は不安がりで寂しがりで人間不信になっていたのを俺が変えようとしていた事。なのに、俺は結局他の奴と同じで逃げ出すのか?あのまま帰して良いのか?絵に恋人を盗られた?単なる嫉妬じゃないか。誰だと言われた時、雪人はいつもの雪人とは違っていたじゃないか。直ぐに戻ったけれど雪人らしくなかった。
こうなってから初めて冷静になる。俺は世界で一番傷付けてはいけない人を傷付けた。破ってはいけない約束を破った。本気で愛すって、愛されなくても俺が愛するって約束したのに!
「何…やってんだ…俺は…」
もう追い掛けられなかった。追い掛ける資格なんてもうないと思ってしまったからだ。ただ流れる涙を止める事なく布団に包まって終わりを覚悟していた。
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