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終わりの始まり

高校生活は中学より解りやすかった。女子の見た目だけでの反応、陰キャだった俺が突然友達を作れるはずもなく、男子には陰口を叩かれた。でも、別にそれは良かった。格好良いからと寄ってきた女子を適当にあしらっていたら勿論女子も俺から遠ざかって行った。ただ虐めにあう程ではなかった。理由なんて知ってる。雪人が休み時間の度に俺の教室に来てくれたからだ。 「おい、お前またクラスから浮いてんじゃん。陰キャは卒業したんじゃなかったのか?」 「…だって、別に俺は友達なんて要らないし…雪人が居ればいいからさ。浮いてる方が楽だしね」 「これは浮気の心配はねえな」 そう言って笑う雪人は優しく可愛かった。成長期を迎えていた俺は何時の間にか雪人の身長に並んだ。雪人は気にしているようだったけれど身長だけでも雪人に近付いている事が俺は嬉しかった。 「今日は帰りどうする?俺は部活行く日だけど」 「知ってるよ、勿論待ってる。いつもの場所でいい?」 「図書室か?」 「うん、読みたい本あるんだよね」 「この前言ってた新しく入ったって本か?」 「そ、だから雪人は部活に集中して頑張ってね」 「…いつもありがとな」 雪人は高校に入ってから美術部に入っていた。それまで運動系を選択していたのに何故か俺が入学した年から美術部に変更し、絵をひたすら集中して書いている。あまりに集中するので先生から週三にしろと命が下ったらしい。雪人は家に帰りたくないと言う理由だけではなく心配になるくらいに描く事に夢中になっていた。まるで今描かないと二度と描けなくなるかのような気迫を感じるくらいだった。 …その時に気付けば良かったんだ。気付いていたら雪人は独りで苦しまずに済んだのかもしれなかった。 「雪人、遅いなぁ…」 ポツリと呟くくらい雪人が図書室に来るのが遅かった。もう18時だ。部活動の時間は過ぎている。心配になって俺は美術室に向かった。 美術室は真っ暗だった。 「え?置いていかれた?」 焦って美術室の扉を開けた。真っ暗な中筆を走らせる音だけが静かに響いていた。電気を点ける。すると我に返ったように雪人はこちらを見た。 「雪人?こんな暗闇で何してるの?見えてるの?」 「………お前誰だ?」 「…………え?」 「っ…えっと…あ、まこっちゃんか!悪い悪い、集中してて一瞬解かんなかったわ。って、うわっ!もうこんな時間か!遅くなったから迎えに来てくれたのか?」 「え?あ、う、うん…」 「悪かったって、今片付けるからちょっと待っててな」 あれは一体何だったんだろう。本気の眼差しだった。『誰だ?』って本気の声音だった。何かおかしい。雪人は俺を忘れる程に絵を描く事が楽しいのだろうか…もう俺に興味なくなったのだろうか…俺の事なんてどうでもいいの? 俺は雪人には何も言わずそのまま待たずに走って帰った。ショックがでか過ぎたんだ。家に着くまでに何度も零れそうな涙を必死に堪えた。堪えて堪えて、部屋に着いた瞬間声を殺して泣いた。自分の事しか考えてなかった…考えられなかった。考えられる訳がなかった。雪人の一言が俺を殺す。 「もう好きでいちゃ駄目なのかな…ははは…絵に恋人を盗られるとか情けな…っ!!」

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