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告白
俺達が仲良くなるのに時間は掛からなかった。
雪人は恵まれた人間だと俺は思っていた。
それを羨む事はなかったけれど、欠点のない雪人はどこか遠い存在だった。
そんな雪人が中学を卒業する。
俺は焦りを感じていた。
雪人は女子にモテる。
しかも、それを自覚していた。
なのに彼女を作る事は一度もなかった。
雪人は…
「中学生で好きとか解かんねえよ」
と、いつも寂しそうに笑っていた。
何故なのか…聞く勇気がなかった俺に雪人は一度だけ話をしてくれた事があった。
「俺さ、親父の愛人の子供なんだよ。母親が病気で死んだ時に初めて会った親父に引き取られてさ、訳も解らず英才教育だよ。義母にしたら俺は疎ましい存在だろ?そりゃ気に入られるなんてありゃしねえ…でも、愛されたくて勉強もスポーツも死ぬ気で熟した。そしたらさ、本当の自分が解らなくなってた」
どこか他人事のように淡々と話す雪人の話は子供の俺には全部を理解するには重い話だった。
「幸い顔立ちと長身ってだけで学校では誰かしらに好きだなんだ言われてきててさ、付き合った事もあるんだけど……まぁ上手くいくわけねえんだわ。俺には愛するって事が解かんねえから…だからさ、告白されても嬉しいよりまたか…って気持ちが先に来て…疲れてたんだよな」
本当に中学生の台詞か?
俺のその時の感想がコレだった。
俺は雪人が好きだったから…
時折見せる寂しそうな横顔の意味を知ると、俺は黙っていられなくなった。
卒業式が終わり二人切りになった時に俺は人生で初めて告白と言うものをした。
「雪人先輩、俺とは付き合えませんか?」
「……は?」
「男だし、歳下だし、陰キャだし、それに…」
「いやいや!そんな事よりお前俺の話覚えてるか?愛せねえっていっ…」
「関係ない!!愛せないなら愛さなくていい!!俺が…俺が雪人先輩に愛する事を教えるから!!」
兎に角必死だった。
愛するとか愛せないとかそんな事よりも消えてしまいそうな程儚く見えた雪人とこれでさよならなんてしたくなかったんだ。
雪人は暫く黙り沈黙が流れた。
「………なぁ、まこっちゃん」
「はい」
「お前は俺を本気で愛せんの?」
「はい」
嘘偽りのない本気の気持ち。
「だったら……付き合って…やるよ」
「マジで!?」
「陰キャを俺の為に改善して良い男になるって約束すんならな!」
「努力します!!」
「努力ってすげー便利な言葉よな」
「…………」
「でも、期待してるぜ」
雪人と付き合えたのは、今思えば奇跡だったのかもしれない。
勿論、その後は陰キャを卒業して興味のなかったファッション雑誌を買い、美容院を巡り、後半頃には嘘みたいに女子が寄って来るようになっていた。
それでも、俺の心の中に居るのは雪人だけだった。
そもそも、陰キャの時代から俺を見ていてくれたのは雪人だけだったし。
見た目が変わっただけで変わるような好きは好きじゃない。
俺はそれを知っていた。
ずっと雪人を見ていたから。
高校は勿論雪人を追い掛けて死ぬ気で勉強した。
合格発表の時は雪人が一緒に来てくれて合格した俺を祝ってもくれた。
そんな時に雪人は俺を見て溜息を吐くもんだから何事かとビクついていると意外な言葉を呟き出したんだ。
「お前さぁ…素材はすげーイケメンだったんだな」
「はい?」
「俺は複雑だよ」
「雪人先輩、さっきから何言ってるんですか?」
「………もう雪人でいい。」
呟く雪人の言葉は幻聴か俺の妄想か疑うくらい嬉しかった。
その日から初めて恋人になれた気がしたんだ。
俺はその少し前から雪人があの寂しそうな顔をしなくなった事にちゃんと気付いてたよ。
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