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3話 ハザード
ご飯を食べ終わると、ユウは食器を洗い始めた。
俺はユウが解いてくれた漢字の丸つけをする。
小学生の頃に習う問題は、丸が段々と増えてきた。
ユウは学ぶことが大好きなようで、教えたことはすぐに吸収する。まるでスポンジみたいだ。
「ユウ、今回の漢字ドリルよく出来てるよ。丸がとても多い。」
「本当!?やったー!」
「こらこら、食器落とさないように気をつけてね。」
「うん!」
無邪気に笑顔を見せるユウ。
ユウはずっと牢に居たせいか、心が少し幼いと感じる時がある。体格的には高校生ぐらいなんだけど。
「明日の大学は午後からだから、午前中に庭に出て少し遊ぼうか?」
「本当!?外に出られるの!?」
「あぁ。家事とか勉強を頑張ってるご褒美。」
「ありがとう!とても嬉しいよ!俺、外出るの、大好きなんだ〜。」
「ユウ、何度も言うけど、外は危ないんだ。俺が外にユウをあまり出さないのだって…」
「分かってるよ。外は危ない。だから新兄ちゃんのお父さんは俺を守るために、あそこに閉じ込めてたんでしょ?」
「…そうだよ。何度も言ってごめんね。分かってるならいいんだ。」
「よし!それなら朝ごはんを庭で食べよ?俺がサンドイッチ作るから。」
「それいいな。頼む。」
「任せてよ!」
ユウが俺と初めて外に出たのは三ヶ月前。
ユウを牢から出した次の日の朝。
俺はユウと手を繋いで、玄関の扉を開けた。
綺麗な青空と眩しい太陽。
周りは住宅街で、特に見入るものなんてない。
俺にとってはいつもの光景でも、ユウは目を輝かせていた。口をポカンと開けつつ、俺の手をギュッと握っていた。
それから庭で何度か俺と一緒に遊んだ。
サッカーをしたり、キャッチボールをしたり。
庭は外からでは見えない上に、とても広いので助かった。ユウの筋肉を動かす良い運動にもなる。
ユウには外は危ない所だと伝えることで、外に出ないようにしている。けれどそれがいつまで続くのか、時々、不安にもなる。
俺が寝室に行くと、ユウは枕を持って俺の部屋へ来た。
「新兄ちゃん、今日も一緒に寝たらダメ?」
少し前までは一緒に寝ていた。けれど、最近はユウに自分の部屋を与えて別々で寝るように伝えていた。が、それを実行できたことは無い。
毎晩、俺の部屋に来てこうしてお願いされる。
正直、可愛すぎて断れない。
「…いいよ。」
「やったー!」
つまり、俺はユウに甘いのだ。
「ユウ、もう電気消すぞ。」
「うん。あ、ここの小さい電気つけるね。」
ベットの横にある小さいライトをユウは付けると、俺のベットに寝っ転がった。
俺も部屋の電気を消して、ユウの隣に横になった。
「…新兄ちゃん、俺、またあれやって欲しい。」
「キスのことか?」
「うん。」
腕をユウの背中にまわす。そしてお願いされた通り、唇を重ねる。
自分の中の何かが満たされる感覚になる。
舌を入れると、ユウの体がピクリと反応したのが、俺にも分かるほど伝わる。
「…んっ…ふ…ぁ。」
離れると、ユウはボーッとした顔になっている。
少し、やり過ぎたのかもしれない。
「ユウ、こんなこと俺以外のやつとしたらダメだからな。」
「ん。」
「俺はトイレ行ってくるから、先寝てろ。」
「分かった。早く戻ってきてね。」
「うん。」
トイレに入って、しっかりと鍵を閉めたことを確認する。
そして自分のアソコを見ると、やはり元気になってしまっていた。
「…はー。」
ため息をつきつつ。服を汚さないように気をつけながら、自分のアソコを触る。
「…っ。…ユウ。」
俺はまだユウと、キスまでしかしたことがない。
ユウは俺にとって天使で、汚したくはない存在。
キスを初めてしたのだって一週間程前。
思わずしてしまった。
それから、ユウからもキス求めてくるようになって嬉しくなってしまった。
「ユウ…ユウ…ユウ…。」
想像する。
俺はユウが大好きだ。何も知らない無垢な天使のようなユウ。
もしこの熱を、ユウにぶちまけたら…
「…っ…!」
手を洗い、鏡に映った自分を見た。
外見には自信がある。けれど、今鏡に映っているこの俺を誰にも見て欲しくない。それほど酷い顔をしていた。
『お前は出来損ないだ!何も出来ない!』
「うわぁ!」
なぜか鏡に、父が激怒した時の顔が浮かび、おもわず驚いて後ろに倒れてしまった。
おそるおそる、自分の震えている手を見ると、あの時の血がべっとりと付いていた。もちろん、血なんか付いていない。本当は頭の隅で分かっているんだ。
「わかってる。こういうのは洗っても落ちないんだ。分かってるんだ。けど俺は…ユウと…」
おれはとても、汚い人間だ。
溢れ出る涙を、自分では止められなかった。
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