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2話 プルアウト
あの日から俺は変わらずに大学に通っている。
家から歩いて20分程の、まあまあな大学。
仲の良い友達と授業を受け終わると、早く帰るために急いで荷物をカバンにしまう。
すると一緒に授業を受けていた志馬から不思議そうに聞かれる。
「新ってさ、最近帰るの早くね?なんかバイトでも始めたの?」
「…いや、そういう訳じゃないよ。ただ早く家に帰って勉強をしたいんだよ。資格取ろうと思ってさ。」
「へー。そう。小学生の頃からの腐れ縁なんだから、なんかあったら言えよ。」
「司馬は心配性だなー。本当に何も無いよ。じゃあ俺は帰るね。また明日。」
「おー。」
志馬は興味無さそうに携帯を使い始める。
司馬は昔から、どこか勘のいい所があった。
これからの付き合いには注意が必要かもしれない。
早足で家へ帰り、玄関のドアを開ける。
玄関の中へ入ってまず確認するのは、『あの子』の靴がきちんとあるのかどうかだ。
あることを確認すると、「ただいまー」と声をかけてリビングへ行った。
「新お兄ちゃん、おかえりなさい。」
「うん。ユウ、ただいま。」
出迎えてくれたのは俺の大切な人、ユウだ。
ユウを隠し部屋の牢から出して、もう1ヶ月経つ。
肩よりも伸びた綺麗な黒髪を一つに束ね、更に凛々しさを増した少年になった。成長期のせいか、背も俺に少しずつ近づいてきている。
「今日の夜ご飯は、新お兄ちゃんの大好きなハンバーグだよ。よくできたと思わない?」
机の上に、よく焼けて美味しそうなハンバーグとサラダが用意されていた。
俺が帰るのに合わせて作ってくれたのだろう。
「お!本当だ!めっちゃ美味しそう。よく作れたな。」
俺が頭を撫でると、ユウは嬉しそうに笑顔になった。
たまらなくなり、ユウの顔にゆっくり近づき、唇を交わす。舌も入れて絡めると、ユウは息がしずらそうにして、そして恥ずかしさから耳まで真っ赤になる。
可愛くて虐めたくなるが、抑えが効かなくなるので俺から離れた。
「それより!せっかくユウが作ってくれたんだ。先に食べよう!」
「別に続きしてもいいのに…。」と小さく言いながら、どこかモジモジしているユウを気にせず、席に着いて食事を始める。
ユウも正面に座って、ナイフとフォークを綺麗に使ってハンバーグを切る。
「ユウはなんでもできるな。もうナイフとフォークを綺麗に使えてる。凄いよ。」
「ありがとう。でもそれは新お兄ちゃんに教えてもらったからだよ。」
ユウのその言葉に、あまり好きではない人の顔が浮かんだので、強引に話をそらす。
「…今日は何かあったか?」
「いや、別にないよ。洗濯物を干して掃除してた。あと、出された漢字のドリルも終わらせた。」
「分かった。あとで採点する。もし何か欲しいものがあったら俺になんでも言ってくれ。買いに行くから。」
「そんなこと毎日言わなくても、俺は外に出ないよ。新兄ちゃんとも約束したし、この生活を十分に満足してるから。」
俺はユウに秘密を持っている。
「それに、俺を『あの男』から助けてくれたのは新兄ちゃんなんだから。」
ユウが言う『あの男』がもうこの世にいないことを俺は伝えていない。
「俺をあそこにずっと閉じ込めて、その上、どこかに行っちゃったんだから。新兄ちゃんのお父さんでもあるし、新兄ちゃんは心配だよね。」
「…そうだな。」
『あの男』を、俺がこの手で消したことも。
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