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1話 ピーク
少年と出会ったのは高校1年の時だった。
両親は俺が小学生の頃に離婚。
俺は父さんに、兄さんは母さんに引き取られた。
けれど父さんは母さんと離婚するのをとても嫌がっていた。そこで母さんは、父さんに定期的にお金の援助をすることを条件に離婚した。
とてもクズ野郎だと今でも思う。
母さんは裕福な家庭の生まれで、その援助してもらったお金で立派な一軒家に、俺と父さんは住むことになった。
父さんは働かず、ずっと家の中にいた。
けれど、俺にはとても厳しかった。
「どうして言ったことが分からないんだ!智也はきちんとできていたのに…!」
これが父さんの口癖。
父さんは、天才の智也兄さんと俺を何においても比べた。けれど勉強や運動で兄さんよりも勝ったことは一度もない。
その度に父さんからあびせられる罵詈雑言。
うんざりしていた。
心を押し殺して、その言葉を聞いていた。
結局、高校受験も父さんが望んたところには合格できなかった。けれど友達も多くできて充実していたと思う。
そんな時だった。
用事があった俺は父さんの書斎へと足を運んだ。
大体、父さんはここでお酒を飲みながら本を読む。
なぜか父さんの書斎の扉が少し空いていた。
父さんの声が廊下まで少し聞こえ、誰かと電話をしていると最初は思った。けれど、口調に少し違和感がある。
いけないことだとは分かっていても、俺は書斎の扉を覗いた。
「なんだこれ…。」
書斎の本棚に隠し部屋が存在していた。
けれどそれは柵があり、牢屋のように見える。
そしてその牢屋には、一人の少年が居た。
綺麗な黒い髪だが、ボロボロの白い服を着ているせいで貧相にも見える。
背格好から中学生くらいの少年。
父さんは何か話しながら、その少年を牢屋から出した。
何か父さんが一方的に話してはいるが、遠いので何を言っているのかまでは聞こえない。
けれどしばらくすると、父さんは突然、その少年の頬を叩いた。
少年はよろけ、その場に倒れる。
そしてまた少年に何かを言ったあと、抱きしめた。
その少年を、とても大事そうに。
父さんは俺に背中を向けているので、どんな表情なのか分からない。
けれど抱きしめられたことがない俺は、あまり良い気分はしなかった。父さんが見ず知らずの少年に奪われたと感じた。
けれど違った。
父さんに抱きつかれている少年は俺の目線に気づき、黒い瞳がこちらを見つめた。
そしてしばらくすると、ニコリと微笑んだ。
「…!!」
その微笑みに俺は体がふるえた。
心が軽くなった。
今まで、天使のような笑顔を向けられたことは今までなかった。
なぜか体に熱が生まれる。
この瞬間、俺にとって少年は絶対的な存在になった。
そして、その少年を独り占めする父さんが憎いと感じるようになった。
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