2 / 4

1話 ピーク

少年と出会ったのは高校1年の時だった。 両親は俺が小学生の頃に離婚。 俺は父さんに、兄さんは母さんに引き取られた。 けれど父さんは母さんと離婚するのをとても嫌がっていた。そこで母さんは、父さんに定期的にお金の援助をすることを条件に離婚した。 とてもクズ野郎だと今でも思う。 母さんは裕福な家庭の生まれで、その援助してもらったお金で立派な一軒家に、俺と父さんは住むことになった。 父さんは働かず、ずっと家の中にいた。 けれど、俺にはとても厳しかった。 「どうして言ったことが分からないんだ!智也はきちんとできていたのに…!」 これが父さんの口癖。 父さんは、天才の智也兄さんと俺を何においても比べた。けれど勉強や運動で兄さんよりも勝ったことは一度もない。 その度に父さんからあびせられる罵詈雑言。 うんざりしていた。 心を押し殺して、その言葉を聞いていた。 結局、高校受験も父さんが望んたところには合格できなかった。けれど友達も多くできて充実していたと思う。 そんな時だった。 用事があった俺は父さんの書斎へと足を運んだ。 大体、父さんはここでお酒を飲みながら本を読む。 なぜか父さんの書斎の扉が少し空いていた。 父さんの声が廊下まで少し聞こえ、誰かと電話をしていると最初は思った。けれど、口調に少し違和感がある。 いけないことだとは分かっていても、俺は書斎の扉を覗いた。 「なんだこれ…。」 書斎の本棚に隠し部屋が存在していた。 けれどそれは柵があり、牢屋のように見える。 そしてその牢屋には、一人の少年が居た。 綺麗な黒い髪だが、ボロボロの白い服を着ているせいで貧相にも見える。 背格好から中学生くらいの少年。 父さんは何か話しながら、その少年を牢屋から出した。 何か父さんが一方的に話してはいるが、遠いので何を言っているのかまでは聞こえない。 けれどしばらくすると、父さんは突然、その少年の頬を叩いた。 少年はよろけ、その場に倒れる。 そしてまた少年に何かを言ったあと、抱きしめた。 その少年を、とても大事そうに。 父さんは俺に背中を向けているので、どんな表情なのか分からない。 けれど抱きしめられたことがない俺は、あまり良い気分はしなかった。父さんが見ず知らずの少年に奪われたと感じた。 けれど違った。 父さんに抱きつかれている少年は俺の目線に気づき、黒い瞳がこちらを見つめた。 そしてしばらくすると、ニコリと微笑んだ。 「…!!」 その微笑みに俺は体がふるえた。 心が軽くなった。 今まで、天使のような笑顔を向けられたことは今までなかった。 なぜか体に熱が生まれる。 この瞬間、俺にとって少年は絶対的な存在になった。 そして、その少年を独り占めする父さんが憎いと感じるようになった。

ともだちにシェアしよう!