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第0話 朝倉 佐介

カウンターが10席ほどしかない小さなバーの、2席しかない奥にL字に曲がる角に掛ける。そこがおれの指定席だ。 一番奥はいつも空いている。そこは昔、が座っていた。 オレは海を眺める街の、小高い坂の上で花屋をしている。 ありがたいことに容姿に恵まれて、そのお陰で仕事もまあまあもらえている。 そういや昔、結婚式場の花をコーディネートしていた時に新郎にやきもちを焼かれてその式場を追い出されたこともあったな。 相棒がいたころはホテルのパーティー会場なんかもプロデュースしていたが、今はおれ一人食っていけたらいいので、大口は年に1、2回やればいいほうだ。 水曜は休みだから、火曜の夜はたいていここで飲んでいる。 それよりもあのガキだ。 いちばん入り口に近い席に座って、ちろちろとこちらを見てはすぐに目を逸らす。仕方がないから、おれも気がついていないふりをしてやっているんだが。 その前に、お前こんなとこで酒飲んでいいのかよ。 よく日に焼けた肌、鬱陶しい前髪の奥で光る大きな目、 周りに怯えながら、ただでさえ小さい体を丸めてより縮こまらせる。お前はハムスターか何かか?怯えすぎだろう。 ときどきマスターに話しかけられて、愛想笑いを浮かべている。 おれはショタは対象外なので、そっちがそうなら別に気にしなぜ。 ここは会員制のバー、というのは表向きのただのLGBTの奴らのたまり場だ。LGBTとは言ったが客の大半はマスターの馴染みのゲイだ。この店でLに会ったことはない。 店のドアの鐘が鳴って、ふたり連れが入ってきた。 気が付けば店はおれの隣とあのガキの隣を残していっぱいになっていた。 マスターが断ろうとしていた。別に常連客ではないんだろう。 「あんた、こっちに来たら?」 マスターとガキが驚いた様子でおれを見た。だが、いちばん驚いているのはおれだ。だってここは彼の指定席なんだから… それにしても喋らないやつだ。おれにばっかり話させやがって。 なんだか気まずい気がして、いつもは営業の時しか喋らないのにいろいろ話をした。と言っても、おれがほぼ一人で喋っているんだが?お前も喋れよ。 柄にもないことをして、やたら酒がすすむ。…。 マスターと目が合った。「さすけ!」 なんだよ。いつも下の名前で呼ぶなって言ってるだろう。 朦朧とした中で覚えているのは、彼がおれより2つも歳が上だ文字文字(ルビ)ということ。それから、名前、名前…なんだっけ? 酔った目元はなんとなく色っぽい気がする。だめだ、おれだいぶ酔ってんな…

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