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家族と子どものポルカ#1

「んあぁ、あっ! りょ、すけしゃん……っ、んお゛っ!」  覆いかぶさって、奥の奥に剛直を叩きつけてくる年上の恋人の逞しい体に、村岡征治(むらおかせいじ)はぎゅっと抱きついた。ゆっくりと、深く長い射程で掘り進んでくる肉棒。村岡に激しい快感と幸福を与えながら、天馬了介(てんまりょうすけ)は腰をゆっくり振る。  拳のように硬く膨らんだ亀頭が、結腸にごりごりと突き刺さった。 「ひぐぅっ! イグっ!」  村岡は激しくのけぞって痙攣しながら、両脚を天馬の腰に絡めている。雄膣はきゅうきゅうと天馬を吸いあげ、柔らかく受け入れ包みこむ。 「んお、あ……! あ゛、あ、んっ、イクぅ……!」  鼻水と涎れと涙まみれの顔で、のけぞって甘く鳴く村岡に、天馬もラストスパートと、激しく腰を振った。村岡の汗にまみれた手をぎゅっと握りしめる。 「おれもイくぞ、征治……っ! いっしょに赤ちゃん、着床させるぞっ」 「んは、ひゃいっ……! あ、あかひゃん、ちゃくしょお……っ、が、がんばりゅ……!」  淫らに緩んだ顔でへらへら笑い、さらに天馬の腰に両脚を絡め、自分のほうに引き寄せる。  孕ませ剛直が、ずくんと子宮結腸に突き刺さった。 「ひはっ! んひ、ひ、イグ……! イグぅっ……!」 「征治っ……、征治……!」  先に村岡が達し、天馬も恋人の中で発射した。どくどくと勢いよく放たれる熱い体液に、村岡の中はきゅんと締まる。愛を込めてしっかりと受け止めた。 「んは……、は……。あかひゃん……」  呆けた顔と涙に濡れたうつろな目で天馬を見上げると、天馬は村岡の涎れで濡れた口元を拭いてやり、そっと微笑みかけた。 「ん、今度は赤ちゃん、授かるかもしれないな。頑張ったな、征治」  頭を撫でると、村岡はへらりと笑った。ぎゅっと天馬に抱きつく。 「あかひゃん、できる……?」 「運がよかったらな」  こくりとうなずき、村岡は天馬の指をはむはむと甘噛みしながら、眠りについた。  黒い短髪を撫で、天馬も隣に横になる。そしてふっとため息をついた。  赤ちゃん欲しいけど、男同士の妊娠率はとても低いし、今度もむりかもしれないな。  受精してないことがわかって、寂しがる顔を見るのはつらい。そんなことを思いつつ、頭を撫でながら、天馬も眠りについた。  村岡征治は二十七歳の図書館司書である。一八一センチの長身痩躯で筋肉質、黒髪短髪で強面の三白眼(でも美男)と、一見怖く見られがちだ。しかしその実は可愛いと言われればすぐに懐くわんこタイプ。優しくされたいドMである。ゲイで、十六歳で初めての彼氏ができて以来男運が悪く、優しい人だと思って近づくと、次第に粗末に扱われるようになるという恋愛遍歴を繰り返していた。  村岡は真面目で自分に厳しく、恥ずかしがり屋なところもある。断ることが苦手だったり、卑屈な面があったりと、自分に自信がなく、本人曰く「ごく平凡な男」だ。  そんな村岡の恋人は、天馬了介という。十七歳離れた四十四歳で、以前は刑事をしていた。現在は私立探偵。仕事がなくて暇なときは警官時代の元同期のバー<Last Waltz>でバーテンダーもしているという、なかなかに「濃い」人物である。一八八センチの長身で、厚みがある逞しい体つきだ。それほどハンサムではないが、村岡には「成熟した雄の色気むんむん」に見える。  警察官時代、恋人の女性を殺されたトラウマがあり、不眠症に苦しんでいるのだが、それを匂わせない優しく飄々とした性格だ。いつも村岡のことを受け止めているが、天馬本人は「おれが征治に受け止めてもらってる」と思っている。  天馬はノンケだが、ある件で村岡と知り合い、見事に落ちた。村岡も、優しくしてくれる天馬にベタ惚れ。昨年の夏から付き合いはじめた。そして、同棲をはじめて一年近く経つ。  そんな二人が目下励んでいること、それは「妊活」である。  村岡が、「子どもが欲しい」と言いだしたのが最初だった。天馬もそう言われてみて、たしかに子どもが欲しいと思った。もう、四十四歳。自分が身籠るのではないから、年齢は関係ない。とは思うものの、今を逃せば……という思いもある。加齢を実感することもあり、中年になった今、子どもは少しでも早く欲しかった。  村岡も早く子どもが欲しくて、セックスをおねだりする回数が増えた。子どもは男の子でも女の子でもいいと言ってはいたが、おれたち男同士だから男の子のほうがいいかな……とも言っている。  これまで何人もの男と付き合い、それ以上にたくさんの男たちと体を重ねてきた村岡。「運命の相手」である天馬と出会い、この人との子どもを授かりたい、と切望した。もともと子ども好きで、図書館でも児童書担当、読み聞かせも上手い。  天馬も、けっこう子ども好きだ。  このところは、二人で出掛けては、楽しそうに歩く親子連れに注目してしまうのである。 「じゃあ行ってくるね、ハムちゃん」  子どもの代わりに、と飼っているオスのハムスター「ハムちゃん」に行ってきますの挨拶をしても、夜行性のハムちゃんは巣穴の中で眠っているのである。穴からちらりと見える丸くなった背中に、お留守番よろしくねとささやく。 「征治ー遅れちゃうぞー」  玄関から天馬の声がして、村岡は慌ててリビングダイニングを出た。年上の恋人が、車のキーを手に待っている。 「朝飯ゆっくりとりすぎちゃった」 「ほら、急いで急いで」  マンションを出て、天馬の白いポロに乗りこむ。  今日は月曜日。図書館は休館日で村岡は休みだが、今度商店街で開かれる子ども向けのイベントの準備ができていないため、同僚たちと休日出勤だ。天馬は村岡を送っていったあと、事務所に向かう予定だった。  助手席に乗り込んだ村岡は、シートベルトをしながら胸のあたりを触っていた。気づいた天馬が、エンジンをかけながら「どうした?」と尋ねる。  村岡はなんだかぼんやりしているらしい。顔色もよくなかった。 「んー……。なんか最近、胸が痛くて」 「神経痛? もしくは、心臓の調子が悪いのかな」  心配そうな顔になる天馬に、村岡は慌てて否定する。 「いや、そういうかんじではなくて。大丈夫です」 「最近、仕事で帰宅も遅いし、疲れてるのかもしれないな。むりしちゃだめだよ。今日だって、頑張って出勤しなくても……」 「大丈夫です」  村岡は微笑んだ。そんなにも心配してもらって、うれしかった。胸をトレーナーの上から触りながら、天馬に微笑みかける。 「心配しないで。ほんとに調子悪かったら、休むから」 「うん」  天馬はハンドルを切りながら、まだ心配そうな顔をしていた。結婚しているわけではないから「愛妻家」とは言えないが、愛妻家なのだ。天馬にとって、村岡は人生の光であり、闇の守護者でもあった。村岡がいてくれると、天馬は自らの闇を見つめることができた。  車は街にすべりだした。現在、八時四十分。九時には着くかな、と思いながらハンドルを切る。朝の街は清々しく、秋晴れだ。あと一か月もすれば、冬晴れと呼べる季節になるだろう。少し寒い日も増えてきた。  カーオーディオからは、天馬の敬愛するミュージシャン、ボブ・ディランの「Make You Feel My Love」が流れている。運転が好きな天馬は、機嫌よく車を走らせていた。  そのときだ。村岡が急に口元を押さえた。 「了介さん……、と、トイレ……」 「トイレ? お腹痛い?」 「ちょっと、吐きそう……」  天馬は急いであたりに視線を走らせた。たしか信号を左折したところにコンビニがあったはずだ。  村岡は青い顔をして、眉間に皺が寄っていた。三白眼がうるんでいる。 「あ、朝起きたら、ちょっと胃もたれしてるな、って思ってて……でも、車乗ってたら、なんかすごく気持ち悪くなっちゃって……」 「すぐに着くからな。でも我慢できなかったら、ゴミ箱に吐いて」  村岡は手で口を覆って、ぐったりとシートに体をあずけた。  すぐにコンビニに着き、村岡は走るように店内に姿を消した。天馬も車から降り、あとを追う。トイレの前で待っていると、村岡が出てきた。顔色は少しましになっている。 「大丈夫か? 吐いた?」  村岡は首をふるふると横に振った。 「だいじょぶ……。でも、気持ち悪い」 「今日は休んで、家で寝ていたほうがいいよ。お腹の風邪かもしれない。清坂(きよさか)さんに電話する?」  清坂敦子(あつこ)は村岡の同僚である。彼はこくりとうなずいた。天馬は村岡の腕にすがって、よろよろと車に向かった。天馬の顔が険しくなっている。 「病院、行った方がいいかもしれないな。行ってみる?」  村岡はまたこくりとうなずいた。天馬の腕にぎゅっと抱きつく。 「変なもの、食べたのかな……? でも、了介さんはなんともないし……」 「同じものを食べていても、体調が悪いと当たったりするんだって。じゃあ、ちょっと引き返すけど、総合病院あるからそこ行こう」  天馬に頭を撫でてもらって、村岡はなんとか気力を振り絞った。助手席ではなく、後部座席にどさりと横になる。天馬が頭がある方の床にゴミ箱を置いた。 「吐きそうだったら、そこに吐いていいからね。じゃあ、行くよ征治」  村岡は青い顔でうなずいた。おれはどうしちゃったんだろう、と思った。仕事が終わったら、了介さんとスーパー回って、今夜は鍋の予定だったのに……しんどい……気持ち悪い……。  無意識に胸を撫でながら、いつのまにかうつらうつらしていた。そのあいだに、車は内崎総合病院にたどり着いていた。

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