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第1話

「好きです。結婚して下さい」 梅雨の晴れ間の休日。 本屋で突然手を握られプロポーズされた。 俺も相手も男。 周囲の目線が気になり、店の外に移動した。 「ごめん、俺男だから無理」 俺の外見は何処にでもいそうな普通のサラリーマン。 初対面でプロポーズなんて、何か意図があるのではと疑ってしまう。 「すみません。自己紹介がまだでしたね。僕の名前は有澤架楠。其処のコンビニのお手伝いをしています」 そういって彼が指差したのは毎日通っているコンビニだった。 一人暮らしの俺は毎朝早めに家を出て朝食と昼食を其処で買い、出勤している。 「一目惚れだったんです。レジで顔を見た瞬間心を撃ち抜かれてしまって。それからは毎日貴方が来るのを心待ちにしてました」 有澤は俺を知っていたのか。 でも毎朝寄るとはいえ、眠くて頭がよく働かない状態で通っている為店員の顔なんて見ない。 知らなくて当然だ。 「名前教えてくれませんか?」 キラキラした瞳で聞かれ 「芳野照葉」 思わず答えてしまった。 「照葉さん。素敵な名前ですね」 そうか?架楠って名前の方が響きが良い気がするんだが。 捉え方は人それぞれか。 「早速なんですが、式場は何処にしますか?」 え? 「教会・ホテル・神社も良いですが、新婚旅行を兼ねて海外も捨て難い」 何の話だ。 一体彼は何を話しているんだ? 突然始まった結婚式場の話。 凄く楽しそうに 「照葉さんは何処が好きですか?」 聞かれ 「明治神宮かな」 当たり障りのない返答をした。 「わぁ、良いですね。最高じゃないですか。照葉さんは白無垢・色打掛・引き振袖どれが良いですか?僕は断然白無垢派なんですが、どうでしょう?絶対照葉さんに似合いますよ」 俺に似合うってどういう意味だろう。 将来俺の妻となる女性は白無垢が似合う人って言っているのか。 「それか二人共羽織袴っていうのも斬新で良いかもしれませんね」 奥さんに男装させるのか? 斬新過ぎる。 「取り敢えず先に区役所行きましょう。免許証って持ってますか?」 「身分証代わりに一応」 「なら大丈夫ですね。照葉さんは事前報告と事後報告どちらが好きですか?」 「ん?事前かな。後からより先に言う方が誠意あるし」 「ですよね。なら一番最初にするのは親御さんへの挨拶ですね。ちょっと待ってて下さい」 突然何処かに電話をしだした。で、切るとそのまま俺の手を引いて歩き出す。 何処に行くんだ? 連れて来られたのはコンビニ。 従業員専用の入口から中に入る。 応接室のソファーに座らされて数分後、見知らぬ男女が部屋に来た。 有能で仕事の出来そうな男性と、清楚な女性。 二人共スーツ着てるし、まるで面接でも始まりそうな感じだ。 「はじめまして。架楠の父の有澤秀星と妻の雅妃です。息子が突然すみません。18の時から社会勉強の為に店の手伝いをさせているのですが、初日に貴方に一目惚れしたみたいで。それからは毎日貴方の話ばかりしてるんですよこの子」 ん? 「平凡で何の取り柄もありませんが、一途なので浮気の心配は皆無です。少し強引な所がありますので、嫌な時はハッキリ意思表示して下さいね?」 何故俺有澤の両親に息子の紹介されてるんだ? 「架楠さん、絶対に照葉さんに迷惑かけちゃダメですよ。余り我が儘ばかり言って困らせない事。絶対ですからね。照葉さんまだまだ未熟者ですが、架楠を宜しくお願いします」 何故俺頭下げられてるんだ? 宜しくって、まさか。 これって有澤を俺に押し付けてないか? 「照葉くん、君の両親には今逢えるかい?」 「はい。多分今の時間帯なら二人共家に居ると思いますが」 「なら今から御自宅に伺っても良いだろうか」 え、今から? 「………はい」 流され流されて、気が付くと 「宜しくお願いします」 「いえ、此方こそこれから宜しくお願い致します」 互いの両親が嬉しそうに手を握りあっていた。

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