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第3話

「おはようございます。先に出ますね」 有澤が先に出て、俺もその後家を出る。 コンビニには 「こちら温めましょうか?」 やはり有澤が居た。 朝から元気だな。 「会社何時に終わりますか?」 定時に終われば昨日と同時刻だが、確証はない。 「分からないな」 そう告げると 「なら分かったら教えて下さい。迎えに行きます」 連絡先を書かれた紙を渡された。 無視したら面倒そうなので、会社が終わる前にLINEを入れた。 仕事が終わり会社から出ると 「お疲れ様です」 宣言通り有澤は迎えに来た。 朝おはようと挨拶を交わし、コンビニのレジで顔を合わせ、仕事後は一緒に買い物をして帰宅する。 夜ご飯食べてお風呂入って布団は別だが同じ部屋で寝る。 いつの間にか有澤は俺の生活の一部になっていた。 今迄は面識のない唯のコンビニ店員と客だったのに不思議だ。 平凡な俺と違い、有澤は綺麗だ。 笑顔は可愛いし言葉遣いも丁寧で上品。 爽やかで人当たりも良い。 少し強引な所が玉に瑕だが、それも発想を変えればグイグイ引っ張ってくれて頼りになると捉えられる。 つまり欠点が少ないのだ。 給料がそこそこという適当な理由で就職した俺。 夢も野心もないから平凡に人生を終えるに違いない。 対して有澤はまだ若い。 学生だし就職先見付からなかったらコンビニ継げば良い。 企業に就職したり好きな事見付けてその道に進む事だって出来る。 俺なんかと将来を約束して良いのだろうか。 色々と勿体ない気がする。 「なぁ、どうして俺なんだ?特にこれといった長所も趣味も特技もないし、俺なんか底辺な存在だろ?」 「え?」 「見るからに将来有望そうなお前と俺なんかが一緒に居たら、お前の経歴に傷が付くんじゃないか?」 「は?ちょっと何言ってるんですか?」 あれ? どうしたんだろう。 有澤不機嫌? 「どうして自分を貶すんですか?俺なんかって。たとえ照葉さんでも僕の好きな人を悪く言うなんて許せません」 いや、許せませんって自分の事だぞ。 「照葉さんは素敵な人です。綺麗だし可愛いし優しいし、欠点なんて何もありません」 一体有澤の目に俺はどう映ってるのだろう。 自他共に認める平凡だし、俺TUEEEEとか俺に跪けとか言える程痛くも強くもないし、年上らしく俺がお前を守ってやると言える包容力もない。 何一つ自慢出来る事も褒める要素もないのだから、卑下しても責められるとは思えない。 「落ち着けって有澤。俺なんかの事で怒るなって」 「またなんかって言いましたね。どうして分かってくれないんですか。いい加減怒りますよ?」 いや、もう怒ってるよ有澤。 「照葉さんが理解してくれる迄顔合わせません」 キツイ口調で俺に告げた有澤は家を出て行った。 あっ、これ初めての喧嘩だ。 どうすっかな、悩むが謝り方が分からない。 自分で自分を褒めたり好きになれば良いのか? って、難しいな。 せめて美形だったら鏡見て俺格好良くね?って見蕩れる事が出来るのだが、俺じゃ無理だ。 あ~もう、どうしたら良いんだよ。 完全に詰んだ俺は有澤の両親に逢いに行く事にした。 そこで俺は初めて有澤の事を知った。 有澤は基本全てにおいて関心がないらしい。 何にも興味が沸かず、したい事も見付けれず冷めていた。 が、俺に恋をした事により変わり、色々な事に興味を持つ様になった。 今みたいに笑えるのも誰かに執着するのも全て俺が初めてで、俺が居るから今の有澤が在る。 有澤の父親に教えられ、そのまま有澤の部屋を案内された。 はぁあ!?何だこれ。 有澤の部屋は気持ち悪かった。 写真立てはまぁ目を瞑ろう。 だが壁や天井全てに俺の写真を貼るのは頂けない。 本棚には沢山のアルバムがあるのだが、まさかそれ全部俺のじゃないよな? 「君の事を好きになってから架楠は変わった。少し、いやかなり異常だが、君のお陰で明るくなったんだ。此処迄夢中になれる存在はこれから先も君しか現れないだろう。すまないが、見捨てず側に居てくれないだろうか。頼む」 頭を下げられて、激しく引き攣った。 有澤お前俺の事好き過ぎだろう。 「架楠さんが行きそうな所分かりますか?」 尋ね、俺は近くの公園に足を向けた。 誰も居ない公園で、有澤はブランコに居た。 何も言わず背後から近付き隣に座ると 「…っ、照葉さん?」 有澤は目を見開いた。 「お父さんから聞いた。俺を好きになって変わったって。あと、部屋も見た」 「えっ!?ちょっ、嘘でしょ?部屋見たんですか?うっわ、ちょっ、どうしよう。すみません」 有澤は激しく動揺した。 無理もない。 あれは人様に見せれる物ではない。ましてや本人に見せるなんて以ての外だ。 まぁ見せたのはお前の父親だかな。 「すみません。気持ち悪かったですよね?」 「嗚呼、ドン引きした」 素直に言うと有澤は泣きそうな顔になった。 「でも少し嬉しかった」 「え?」 「俺さ今迄モテた事ないんだ。多分これから先も俺を好きになってくれる人はきっとお前しか居ないんじゃないかな?」 不思議だな。引いたし、気持ち悪いと思った。 だけど不快には感じなかった。 寧ろ、嬉しかったんだ。 「自信なんてない。特技も秀でた物もない。だけどさ俺1つだけ自慢出来る事が出来た」 「何ですか?」 「お前だよ。全力で俺を好きになってくれる存在。なぁ有澤、俺これから先も自分の事卑下すると思う。でもお前の気持ちを知って考えた。俺自分の事好きになりたい。変わりたい。趣味も目標もなかったけど、これから探す。ゆっくりだけどお前に相応しい人間になるから、側に居てくれないか?」 「まるでプロポーズですね」 「嗚呼。お前の方がシンプルだったけどな。嫌か?」 「いえ、嬉しいです。照葉さん抱き締めて良いですか?」 遠慮がちに聞かれ頷くと 「愛しています照葉さん」 優しく有澤は俺を抱き締めた。 それから月日が過ぎ、俺達は式を挙げた。 神前式は無理だったが、教会で身内のみを集めて指輪の交換をした。 妊娠は無理だが、二人で一緒に居る限りずっと幸せは続くだろう。 結婚して同じ家に暮らしてもコンビニ店員と客の関係も継続したいという有澤の希望で、俺は毎日コンビニに向かう。 いつもの様に必要な物を選びレジに向かうと、いつもの様に有澤は口を開いた。 「こちら温めましょうか?」

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