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第1話

 ここセリーニ大陸では、長きにわたり邪竜が人々の生活を脅かしていた。田畑を業火で焼き、人を糧とする怪物に、人は身を寄せ合い生きるしかなかった。邪竜だけが脅威ではなかった。影響を受けた獣達が凶暴化し、これもまた人に害をなした。怒り狂える獣は魔物と呼ばれた。  人々は邪竜や魔物たちからから身を守る術として、ある者は武を磨き、またある者は魔術を習得した。秀でた者は、邪竜に立ち向かうこともあったが、その多くが命を落とした。  大半の人々は、ただただ、己の命が奪われることがないよう祈り、天命が尽きることを本懐とすることを唯一の願いでとした。 しかし、遂に人が邪竜を討ち果たし、堪え忍んだ時代が終わりを告げたのだ。人々は歓喜に湧き、偉業を成し遂げた勇者達の名を呼ぶ声が絶えない。 ――賢者メルキオール 殿、万歳――  黒い装束から覗く、銀色の髪。紫色の口紅と服の上からでも分かる豊満な体つきから、メルキオールは偽名だろうと誰もが思うが、本人がそう名乗るのだから仕方がない。  王都「メラス」に置かれた研究所に籍を置き、魔術の造詣が深い。優れた魔術師でも二つの属性までしか習得できないと言われているが、地水火風、四属性の術を操ることができるという。 ――姫騎士サファイア様、万歳――  姫騎士の名の通り第三王女として生を受けながら、勇敢に戦う乙女。美しいみどりの黒髪に深い青の瞳。いかにも男装の麗人といった凛とした出で立ちで、民衆からの人気を集めている。王族の娘にしか心を許さないという神馬を操り、天空を駆ける。地上においては華麗な剣術を、空中においては風の術で邪竜を翻弄した。   ――神官アダマス殿、万歳――  類稀なる法力を持ち、癒しの術で傷ついた人々を救う者。法力以外にも、薬草、毒草など医学的な知識も有している。  この旅の途中で、現国王の腹違いの末弟であることが各地に知られてしまい、本人としては複雑な心境にあるという。  癒しの術だけではなく、根術と地属性の術を駆使し、他の者を支えた。年長者として勇者一行のまとめ役も勤めていた。 ――槍士リカルド殿、万歳――  商人でありながら、槍術で鍛え上げた屈強な肉体を持ち、鳶色の髪に程よく日に焼けた肌、夏の海を思わせる碧眼の美男子である。野性味の中にどこか気品を感じるのは、彼が貴族に連なる者だからだろう。  その中でも、この者の名が多く呼ばれている。 ――聖剣の使い手 イリス殿、万歳――   聖剣の使い手と称えられし彼こそが、邪竜の喉を穿ち、暗黒の時代に終止符を打った者である。

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