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第2話
「魔物の乱入にあったが、此度も無事終わりそうだな」
邪竜亡き後も獣の暴走は止まらず、人々は不安に揺れていた。そんな人々を勇気づけるため、国王からの依頼により、勇者一行は各地へ慰問を行っていた。勿論、国王も勇者達だけを各地に向かわせるような無体はしない。護衛として兵を同行させていた。これは、そんな兵たちの呟きである。
慰問中も街の入り口付近まで獣が襲い掛かり、兵達によって食い止められたところであった。民衆が歓喜に沸く中、一仕事終えた兵士達の束の間のひととき。
勇者一行は馬上にあり、その足で街を巡っている。
「リカルド殿は、相変わらず美丈夫だな」
「ますます磨きがかかったというか、男も惚れる男というやつよな」
「服も着崩してるんだが、だらしなさを感じさせないところ、流石だ」
「鍛え上げられた小胸筋……イイ!」
「アダマス様は相変わらず神々しいな」
「王族に連なる方でもあるしな」
「本当に法力で何でも消し飛ばせそうだ」
「浄化プレイ……イイ!」
「サファイア様、黄色い悲鳴が上がっていますな」
「凛々しい騎士姿は、女性の憧れですな」
「この前、恋人と離れ離れになってしまい、泣く令嬢の涙を拭うところを見たが、絵になってたなあ」
「キマシタワー設立……イイ!」
「メルキオール殿は、あまりお近くで見たことがなかったが、まさに才女といった方だな」
「研究員だからなあ、俺たちとは頭の出来が違うさ」
「難しい言葉使ってるのを聞いたことあるなあ」
「知的な美女による言葉攻め……イイ!」
そんな兵士の前を、聖剣の使い手と称される青年が通り抜ける。紅の髪に琥珀色の瞳。大陸の東部出身で、顔立ちは王都の人間とは少し異なる印象を与える。
滑らかな肌、細い顎。弧を描く唇は下唇こそ厚みがあるものの上唇が薄いため、その存在を主張し過ぎることはない。目も同様に彫の深さは感じさせないが、ぷっくりとした涙袋が愛嬌を作り出していた。
「しかし、イリス殿は、あれだな」
「うん」
「前々から、中性的な顔立ちだったとは思うが」
「ああ、何というか、伏し目がちになったところなど、扇情的だったな」
「男に使うのも変なんだが、グッと色気が増したというか」
「可愛いあの子の意外な一面というヤツですな……イイ!」
「妙な輩が妙な気を起こさねばよいが」
「というか、既に妙なこと言ってる奴がいないか?」
「疎外感……イイ!」
「誰がこいつを摘まみ出せ!」
「こいつ護衛兵としては、優秀なんです!どうかご容赦下さい!」
兵達が会話に花を咲かせている横で、蠢く影。つい先刻、討伐した魔物である。攻撃を受け、動かなくなったために、死んだものと思われていたが、どうやら息の根を止めるには至らなかったようだ。
気づいたところで、時既に遅し。門を破り、魔物はけたたましい雄叫びを上げながら、街の中へと侵入する。
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