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 翌日の昼休み。  色々考えた結果、ごまかさずに直球で聞くことにした。 「ねえねえ。達紀って、中学の時サッカー部だったんでしょ?」 「うん、そうだけど。何で知ってるの?」  キョトンとしている。  良かった、隠しているわけではなさそう。 「このあいだ、同中の友達にばったり会って、達紀の話聞いたんだ。プロチームに入ってて強かったって」 「え? 誰?」 「竹田くんっていう子。四中。知ってる?」  達紀はぱっと表情を明るくして言った。 「うんうん、覚えてるよ。四中強かったから、トーナメントでよく当たってて」  懐かしむように目を細めた。 「どうしてやめちゃったの? バンドやってるって言ったら、竹田くん、すごいびっくりしてたよ」 「あはは。小中は、サッカーバカみたいな感じだったからね。当時を知ってる人が聞いたら、びっくりするのかも。やめたのは、普通に怪我。ひざのお皿やっちゃって」 「え?」  思わず足元を見る。  けど、両ひざを立てて三角座りをしているし、思い返しても、日常で特に痛がってる様子は見たことがない。 「大丈夫なの?」 「うん。いまは全然平気で、普通に運動もできるし、なんともない。けどまあ、その時はちょっと治りが遅くて。他の人たちはどんどん先に進んでて差が開いてたから、プロでやっていくにはハンデだよねってことで、すっきりさっぱりやめた」  怪我を乗り越えて巻き返そうと思わなかったのは、単純に、気が済んだかららしい。  プロチームの人には当然止められたし、籍だけ置いていた学校のサッカー部にも、こちらでやらないかと散々言われたけど、断ったのだそう。  サッカーでやれることはもうないから、新しいことをやりたい、と。 「達紀、俺ね。いままでなんとなく、達紀はなんでもできるすごい人だと思ってたんだ。できないことはないくらいの」  達紀の方へ少し近寄り、太ももにちょこっと手を置く。 「だから、そんな苦労? があったなんて、全然思いもしなかった」 「幻滅した?」 「ううん。教えてくれてうれしかった」  達紀は、片手で俺の手にそっと触れて、そのまま軽く手を繋いでくれた。 「別に大したことない人間だよ、僕は。好きな子が目の前にいたら、キスしたり触りたくなっちゃう……本当に普通の」  身を乗り出した、と思ったら、次の瞬間にはキスされていた。 「……っはぁ。びっくりした」  普段、学校ではしないので、本当にびっくりした。  達紀は、いたずらっぽい笑みを浮かべて、ほんの少し体を寄せる。 「これから長く付き合って、いっぱい一緒の時間を過ごしたら、僕はきっと、あおにかっこ悪いところを見せまくっちゃうと思う」 「それはお互いさまじゃない?」 「あおは何しても可愛い」  慈しむような目で、頭をいいこいいことなでる。  俺はくすぐったくて、首をすくめてしまった。  達紀は、声を殺して笑ってから言った。 「僕は、いままでの人生で誰かに秘密にしていたことと言えば、男が恋愛対象なことくらいだけど……いまは、もうひとつあるなあ」 「なに?」 「恋人がこんなに可愛いこと。あおがこんなに可愛いなんて、誰にも教えたくない」  ちょっと恥ずかしくなって、うつむく。  達紀は、ほんの少し不満そうに言った。 「チャボがあおのこと可愛い担当って言ってたり、アーサーが子猫扱いしてたり、基也が中性キャラで売り出そうとしてるのは、ちょっとどうかと思うけどね」 「……やきもち?」 「多分ね。あ、これも誰にも言えないや」  そう言って、何度も何度も試すみたいにキスしてくる達紀は、多分、本人が思っているより大分可愛い。 <3章 ひみつ 終>

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