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第八章 第24話
室温は快適な温度だったが、彼は汗をかいているので肌寒いかも…と思い至る。茶色のデスクに上気したしなやかな肢体を預けている教授をしばらく鑑賞した後、掌の油分をテイッシュで拭き取り、クローゼットを開けてガウンを取り出した。
「シャワーを浴びたいかと思いますが、取り敢えずはこれを」
そう言ってガウンを着せ掛けた。
「有り難う」
そう告げる声も心なしか疲れているようだった。ガウンを着せて、抱き上げてベッドに丁重に運ぶ。彼は男性としては細い方だがそれなりの体重はある。普通の人間は抱き上げてベッドに運ぶシュチュエーションは「そういう」時くらいだろう。女性を運ぶのも大変だとどこかに書いてあったが・・・。祐樹は職業柄意識不明の患者さんを運ぶこともあり、コツは分かっているので簡単に運べる。
「少し、失礼」
言い残して、洗面所に入った。口の中が流石にベトつく。決して不快ではないものの。 備え付けの歯ブラシで歯を磨いて、青色のマウスウオッシュでうがいをする。ミントとシトラスの香りが口の中に広がっていく。
口の中がサッパリしたせいか、理性も戻ってきた。
――彼は、まだ本調子では…ない――
内科の内田先生は回復したと太鼓判を押してくれたが、今夜は無理な姿勢をずっと取らせ、絶頂まで導いた。普段ならそんなに疲労は感じないハズの行為だが、数日前まで点滴のお世話になっていた彼には酷かもしれない。しかも、これ以上の行為となると…動く方が体力をより一層使うのは当たり前だが、受け入れる方もそれなりに疲れるハズだ。断腸の思いで、決断する。
――今日はここまでにしておこう――
シャワーブースに入り湯温設定を「冷水」にして自らの欲望を鎮めようと努力する。彼の絹の感触を最も感度がイイ場所で接することが出来ないのは大変残念で非常に心残りだが、数日前まで病人だった人間に無理強いすることも出来ない…。そう思って必死に鎮めようとしたが、かなり辛い。萎えるであろう場面を必死に思い出し、冷水を浴び続けた。
やっと自身の欲望を抑制して、ガウンを羽織って浴室から出た。彼はベッドに半身を起こしていた。祐樹と目が合うと、花が綻ぶような微笑を浮かべる。
――マズい…――
そう思って、事務的な口調で言う。
「今夜はここまでにしておきましょう」
オレンジ色の照明の下でも彼の表情が一変したのが分かった。顔が強張っている。
「……私を指だけでしか、満足させる自信がないのか?経験豊富なクセに」
冷たい声でそう宣言された。彼の瞳は一見強気な光を宿しているが、その奥では繊細なガラス細工のような脆さも垣間見える。
――人の気も努力も知らないで…――
一瞬で理性が蒸発した。祐樹は理性には自信はあったのだが。
「指だけでは満足出来なかったんですか?見かけに寄らず貪欲な人だ。…では、ここに来て下さい。邪魔なモノは脱いで」
教授が使っていない方のベッドに上がり、行儀の悪いことは承知の上で枕の上に胡座をかく。
教授はすらりとした裸身を惜しげもなく見せ付けながら祐樹のベッドの傍らに立つ。
「どうしたら…いい?」
先ほどの強気さは鳴りを潜め、困惑した様子でそう言った。だが、期待はしているのだろう、彼の欲望の証は雄弁に気持ちを物語っている。
「跨って下さい」
多分、この体位が一番体力的に消耗が少ない…と思う。
彼はおずおずとベッドに上がり、祐樹の目を見ないようにして…大たい骨の中ほどに腰を下ろした。
大胆かと思えば初心な行動を取るのには慣れてきたが、思わず失笑してしまう。
「そこだと、お望みのモノは挿りませんよ…。もっと上です。それと、ガウンを捲って下さいね」
貧乏性だと我ながら思ったが、今夜の教授の痴態は祐樹が見てきた人間の中で最も色っぽい。この年になって夢精するかも…と危惧し下着を汚すことを憚って着けていなかった。クリーニング代もこのホテルの代金では馬鹿にならない出費だ。
言われた通りにガウンをはだけた彼は先ほどの発言で最大限に大きくなった欲望を見て、慌てて目を逸らす。が、ソレが中に入って来るのを想像したのだろう…薄紅色の唇を舌で舐めている、無意識だろうが。
「どちら向きに座ったら…いい?」
どちらでも…と答えれば、多分悩むだろうと即答した。
「後ろ向きに座って下さい。そうすれば胸も存分に可愛がって上げられます」
彼の秘密の蕾が祐樹に当たる。ソコはもう収縮が始まっていた。
後ろから手を回して、彼の二つの尖りをそれぞれ四本の指で弾くように愛撫する。その都度彼の柔らかな髪が祐樹の顔に当たった。相変わらず良い香りのする髪だった。
「挿れますよ…息をゆっくり吐いて下さいね」
そう言って挿れようとするが、直腸壁内部の痙攣でなかなか入らない。こんな人は初めてだった。
「早く、極上の絹の感触を味わいたいのに、焦らしているのですか?ひくひくと痙攣して挿入し辛いのですが…」
「焦らしているのは、祐樹だろうっ。早くっ、欲しい」
どうやら痙攣は彼の体質のようだった。やっとのことで先端を含ませる。が、挿入する際に、こんな収縮を味わうと病みつきになりそうな感触だ。挿れ辛いが、感触は絶妙だ。 最も感じやすい先端部分がシルクの肌触りを捉える。言葉に出来ないくらい悦かった。本能のおもむくまま、彼の前立腺を摩擦する。
「あっ…もっと…」
乱れないと本当のことを言ってくれそうにない彼に質問をぶつけた。
「こんなに極上の絹の感触を今まで何本のモノが賞味したのですか?そんな綺麗な顔をして、しかもゲイ・バーにも足を運ぶ貴方だ…。言い寄って来る人間は多かったでしょう?言わないと、このまま動きません」
厳かに宣言するが、胸の尖りへの悪戯は止めない。掌で転がしたり、指で弾いたり。
彼の背中に汗の雫が浮いて、反り返るたびにキラキラとオレンジ色の照明を反射する。
「何人か…当ててみろ・・・経験豊富ならある程度は分かる…ハズっ!」
強気な命令口調だが、感じ切った声と、胸を触られるたびに乱高下する音程だった。
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