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第八章 第23話

「あっ…本当にっ…もうっ」  欲情に濡れて切羽詰った声がする。が、その声は祐樹が過去に抱いた他の男女やアダルトDVDの声とは違っていた。悦びを感じているのは内部の収縮や紅に染まった肌で分かっている。が、声は控えめで、声だけ聞いていると辛そうな細い嬌声だった。  祐樹の経験ではこういう時の声は普段普通の音量で話す人間もアノ時の声は大きくなるというのに…。しかし、新鮮だ。 「今、三本で突いて差し上げますから」  極上の絹のような感触をもっと味わいたくて、指を三本に増やす。内壁も充分潤っているので大丈夫そうだ。   ゆっくり三本の指を広げて内部を鑑賞する。少し紅くなった壁が淫らでありながらもどこか清楚な動きをしている。もし、この中に入っているのが自分のモノだったら、すぐに放出してしまいそうな極上の感触だ。  全身が耐え切れないように震える。そろそろ焦らすのも限界のようだった。もう少し味わっていたいという未練を断ち切り、彼の最も感じるポイントを抉るように突いた。 「う…んっ」  背中が限界まで反る。その上気した肌には汗の粒が光っている。  そして、力尽きたようにデスクに上半身を委ねた。ゆっくりと指を引き抜こうとすると名残惜しげに引きとめようと内部が動く。  これでは顔が見られない。彼の逝った顔をじっくりと見たい。普段の怜悧な顔はもちろんのこと、先ほどまでの凄絶な色っぽさを湛えた顔は見た。今はもっと乱れた顔をしているだろうから…。 「教授、仰向けになって下さい」  そう言ってみたが、弛緩した身体は指一本動かすのも億劫そうだった。が、フト悪戯心がわく。顔を耳元に近づけて取っておきの低く、甘い声で囁いた。 「聡、仰向けになって…」  そう言いながら薄桃色に上気し、しっとりと汗の膜を纏った身体に手を掛ける。彼が仰向けになるのを助けるために。  その声を聞いた時、ひくりと彼の身体が動いた。そして祐樹の手を借りてデスクの上に仰向けになる。上半身はデスクに預け、細く綺麗に伸びた足は宙に浮いていた。  想像通り、いやそれ以上に彼の顔は淫らでありながらもどこか気高い満足げな顔をしていた。上気した頬に涙の筋が伝い、逐情の快楽の深さを物語っている。 「とても綺麗だ…。このままここに閉じ込めておきたいくらいです」  心の底からの言葉だった。  彼の放出した白いモノが、室内のオレンジ色の光を浴びてねっとりと光っている。茶色のデスクに気だるげに投げ出された白い脚と相まって、とてもなまめかしい。  他の男性とそういうコトをした祐樹なら、クリネックスかタオルで拭き取ることしかしなかったが、彼のモノだと思うとそうする気にはなれなかった。恭しく跪いて彼の少し上気した白い脚に筋になって伝っているそれを口で受け止めた。 「そ、そんなことはしなくて…いいから」  慌てて身じろぎしようとする教授の脚を掴んで固定する。教授が上から見下ろしていることに気付いたので、ワザと舌を出して舐める。  止めても無駄だと思ったのか、彼が羞恥に震えながら涙の膜を張った目を逸らすのを満足げに眺めた。お世辞にも味も匂いもいいとは言えないソレが彼のだと思うと抵抗なく口に含み嚥下することが出来た。  デスクの上に脱力した身体を預けている彼のしどけない姿をただ凝視する。鎖骨上の情痕が花びらのようで美しい。もっと咲かせたくなった。いつもよりも潤った肌を唇で強く吸引する。すると、彼の身体が弓なりに反り、縋るように腕が背中に回された。スーツを着たままだったので力は随分布地に吸収されているだろうが、素肌だったら爪跡が残りそうな力だった。 「聡、どうして欲しい…の?」  そう聞いても、彼は首を振るばかりだ。理性が戻ってきたらしい。気になりながらも鎖骨に口付けていると顎に尖ったものが当たった。彼の指の力が強くなる。  薄い珊瑚色の胸の尖りをどうにかして欲しいのだと今更ながらに気付く。経験値はそう高くないことは最初の情事で分かっていたが、今日は彼の過去を全部知りたい、どうしても…。 「教授は右利きですよね?で、左手も器用ですが…、もしかして両手を同じように使えますか?」  話題が百八十度転換したことに戸惑った顔をする彼の顔はあどけなくさえ見えた。 「右利きだが…?ただ、左手も同じようには動かすことも出来る…」 「基本は右なんですね…分かりました」  大分減ってしまった乳液を右手に振りかけて、彼の胸の突起を掌で転がす。彼は満足そうな咽喉声を立てた。次第にその速度を速め、次に指で弾く。彼の背中がデスクから浮き上がる、もっと…と言いたげに。指の動きをもっと感じたいのか胸が反り返る。 「右…もっ」  微かな声が上がる。左の尖りしか触れていなかったので。鎖骨に落としていた唇を動かして右の胸の突起を舌で包んだ。そのまま吸引する。 「あっ…」  濡れた声を聞くとすぐに左手を動かすのを止めた。そしておもむろに右の尖りに歯を弱く立てた。彼の手が背中を強く掴んだ。すぐに唇を離して、彼の顔を覗き込んだ。 「本当のことを言って下さい。どちらがより感じましたか?」  彼は真摯な瞳で言った。 「……左……」  恥ずかしいのか単語で言うと紅に染まった顔を逸らす。  安堵の気持ちがこみ上げる。殆どの人間は、利き手側が性感帯だ。彼には過去に胸を弄られていた経験が有ることも知っている。  祐樹の経験から演繹すると、セックスをした人数が多い人間は胸をただ触られるよりも噛まれる方が性感を強めるという傾向が著しい。彼が右利きなら右の胸をより多く触られたハズだ。その右側を噛まれても、それほど感じなかったということは彼の男性遍歴がそれほど多くなかったということだろう。

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