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第42話エピローグ

 退院して家に帰って一週間して、元通りの僕はバイトとジム、アイツは大学と研究の毎日にもどっていた。     その日、アイツと来たのは霊園だった。  なんとなくうっすらわかってた。    アイツがなんかモジモジしてついてきて欲しいと言った時から。    アイツがいつもの真っ黒の服じゃなくて、僕が選んだ服を着ていたし。  僕も親戚の結婚式のために兄貴に買ってもらったスーツを着て行った。  僕かてアホやない。  アイツが愛した、もう喪った人。  その人がこの墓にいる。  墓には何も書いてないサンプルみたいな墓石だけがあった。  墓は綺麗に掃除されていた。  アイツはそっと墓石に触れた。  子供が甘えて手を握るみたいに。  誰なのか。  僕も色々考えた。  アイツは爺さんと兄貴がおることは隠そうとしない。  でも、頑なに両親のことは語らない。  アイツの家系は男系で男しか生まれないことは聞いていたし、生まれた男は【例外なく】研究者になるともいってた。  研究大好きなアイツが研究者である父親について語らへんのは、相当な理由があると思う。  憎しみとは言わないまでも。  じゃあ、アイツの忘れることが救いになる程に愛した人は?  父親じゃないなら?  そして、何故母親についても語らない?  多分。  語るのが辛いほど、まだ悲しいからや。  忘却だけを救いとするほどに。    それは、そういうことや。  だから勝手に母親やと決めとった。  そして、そこは本当にアイツの母親の墓やった。  でもちょっと僕の予想は外れてた。  正確には母親代わりの人の墓やった。  「実の母親ではないんや」  アイツは持ってきた花を置いた。  「爺さんが、60年前あの村から女の子を連れて帰ってきてな、連れて帰ったことを研究に忙しくて忘れてる間に、屋敷に居着いてしまったらしい、あの村でじゅすな様と言われて蟲を入れられた青年の、スペアで、女王の入れ物。つまりあの女の子と同じ立場やった人や」  アイツの言葉になんかアイツの家らしいエピソードだと思った。  連れて帰って存在を忘れるとか。  でも納得する。   蟲のような怪異に慣れていた子なら、この化け物屋敷にも順応しそうだ。    「で、まあ、家の仕事やなんやをしてくれる家政婦みたいになってはったんや。爺さんは研究以外興味がない人なんで、俺の兄貴や俺も育ててくれたんや」   結局、両親についての話はない。  謎は謎のままや。  でも、アイツの優しい顔が、その人を愛していたことを教えてくれた。  怪異と共に育ち、人間に虐げられていた少女が大人になり、アイツを育てたのだ。  自分を助けてくれた恩人であり、自分の愛しい人を殺した男でもある者の家で。    ええと、年令的には祖母代わりやとも言えるけど、まあ、アイツが母親と思てるから、母親やな。  アイツの怪異への愛とか、人間嫌いなの理由がわかった気がした。  「俺が10才の時にな、病気でな・・・。俺はなんとかしようとしたんや。でもな、どないにもならんかったし、許してくれへんかった。怪異と不自然な契約をして人間を助けようとするなって」  アイツは小さい声で言った。  「この人が泣いてる俺に言うたんや。大丈夫。悲しいことは忘れるからって。そして、ちゃんと愛だけが残るって。でも、まだ・・・悲しいことは消えてへんな」  アイツはそっと泣いた。  綺麗な涙が白い頬を伝う。    「でも、確かに死んだ位じゃ愛してることは消えへん。小さなことは忘れていくし、確かに楽になってるのに。愛してくれて、愛してたことは消えてへん」  アイツの言葉が僕の胸に落ちる。  「こんな骨置いてあるだけの場所にあの人がおるわけ無いんやけどな。こんな墓に来たらあの人に会った気がするなんて、俺の自己満足で、あまりにも非科学的やけどな。それでも、俺はあの人にお前を会わせたかったんや」  アイツは小さく微笑んだ。  その微笑みがあまりにも綺麗で。  切なくて。  僕はアイツを抱きしめていた。  アイツが占い師に言った。  人間が占いをしてまで欲しいのは本当の未来ではなく、答えなのだと。  答えさえあれば、苦しみにも耐えられるからだと。  人は占いという森の中で迷いながら答えを探す。   そして、そこで見つけた答のためになら、事実や、未来の方をねじ曲げさえもする。  占い師は愛する者を取り戻すことを答えにした。  死んだ人は還らないことを無視して。  それは新たな歪みを生んだ。  僕はそんな答えを求めない。  苦痛から逃げない。  僕とアイツはいつか引き離される。  死は必ずやってくるからだ。  もし、僕が残ってしまったら?  だとしても、占いの森の中で苦痛に耐えるための答えを探すよりも、苦痛を受け入れる。  その苦痛そのモノがアイツだから。  忘却という機能が、やがて癒やしてくれることを信じて、苦痛をアイツの代わりに抱き締める。  「僕をこの人に会わせたいと思ってくれてありがとう」  僕は心から言った。    「うん」  アイツは僕の腕の中で泣く。  僕はコイツを追いかけるだけだ。  どこまでもどこまでも。  コイツの息が止まるその日まで。   未来なんか知りたくもないし、生きていくことを耐えるために必要な答えもいらない。    それでも生きていくための答えがどうしても必要だと言うなら。  「愛してる」  僕は言った。  この言葉はコイツに届かないかもしれない。  僕の想いはいつも伝わらない。  でも、この言葉を答えにすることはできる。  僕には占いの森は必要ない。  アイツを追いかけるだけでいい    END  

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