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第1話 ~新居~
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二月のはじめ、雪が降りそうな冷たい朝に、この部屋へ引っ越してきた。京さんが内装設計したスポーツジムが一階にあり、本当だったら二階はヨガスタジオとボクササイズ用のリングを設置する予定だったらしいけど、大人の事情で予定は白紙になってしばらく使われていなかったらしい。でもできれば売り払いたくはないということで、大人の事情が解決するまで、京さんと二人でここに住むことになった。
場所的には大崎広小路の目黒川沿いの長閑な場所だ。春には桜も見れるらしい。大崎広小路はJR五反田駅駅にも近い。隣は目黒で、次は恵比寿。俺が前の会社に復帰するにあたって、自転車でも通えるところを選んだんだ。京さんが住んでいた駒場公園のマンションは、間取りもいいので貸出たらすぐに応募があった。家賃収入もあるので、余裕ができたと京さんは笑った。
「何センチ?」
「2メーター……、30」
「うーん、オーダーだね。時間かかるかもね」
「ねー、カーテンでいいんじゃない? 長めのヤツ買ってさ、裾上げくらいならできるよ」
ピシっと音を立てて、自動で巻尺は京さんの手に戻る。その音は何度聞いても少しビビるので、身体を捩る。その度に京さんは笑う。からかってんな?
「ミシンも買うの?」
「手でやれるよ、アイロンはある?」
うんうんと頷きながら、京さんは買い物リストにメモをする。
マンションの方の賃貸契約がすぐに決まってしまったので、荷物をまとめて慌てて越してきた。まだ内装も途中だから、カーテンやら、床がむき出しのままだったりする。浴槽や水回りの工事は済んだものの、玄関となる扉も全面ガラスの自動ドアのまま。でも、二人の新居を二人で作っていくのってなんだか楽しい。
「ここも壁紙張りたいよね」
ヨガスタジオ用のフローリングの部屋をリビング・ダイニングにした。ロッカールーム用の部屋をベッドルームにしたおかげで、ドレッサーとシャワールーム付きのベッドルームになった。ゲストルームみたいで使いやすいと京さんは言ったけど……なんか、ね、してすぐ使えるみたいの、便利だけど、なんか、ね……って俺は思う。
京さんが今サイズを計っているのは、廊下の部分。入口……玄関からロッカールームとリビングを繋いでいるけど、ロッカールームは寝室にしたので、ここを壁でふさいでウォークインクロゼットにした。とりあえず急いで施工してもらったので、なんにもない白い壁だ。
リングを設置する予定だった隣の部屋は、床も壁もコンクリむき出し。女性専用のジムだけどワイルドにしたかったらしい。コンクリで枯山水のような紋様が表情豊か、とはいえるけど、寄りかかるだけで傷だらけになりそう。ここにはジムで使う予定だった色々を、倉庫代わりに積んであったりする。フローリングの方にアイランドキッチンも置けたし、浴室の配置も俺がしぶしぶ許容したことで、半分で収まってしまったので、家賃も半分で収まった。倉庫にするには勿体なさすぎるスペースを眺めていると、京さんが隣に立つ。
「デスクやソファーを置いて、ワークスペースにしようか」
時々、駐車場の生垣でごはんを食べたり、スマホをいじったりしているトレーナーさんがいる。案外待機場所は狭いのかもしれない。
「いいね、ジムの人たちも使えるようにしたら、部屋も生きるね」
そう応えると京さんは肩に手を回して微笑む。ドキドキするからやめてよね。
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