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第一章 星の青年
「朝ですよ。起きてください」
「え?」
耳元でそう囁かれ、鳴滝 和正(なるたき かずまさ)は瞼を開いた。
にっこり微笑んでいるのは、若い男性だ。
清潔な制服を着た、笑顔の素敵な青年だった。
「お客様、上映が終わりました」
「あ、あぁ。ごめん、ごめん」
星降る夜に抱かれて、ぐっすり眠っていた。
ここは、大型商業施設のビル内にあるプラネタリウム『銀河』だ。
和正は、今期の夏に催されるイベントの打ち合わせで、このビルに来ていた。
会議は13時からだったのだが、先方の都合で15時に変更になってしまった。
思いがけず時間が空いたので、プラネタリウムで時間を潰すつもりだったのだ。
宇宙のロマンに浸るはずが、途中から、いや、かなり始めの方からぐうぐう眠りこんでしまっていた。
「せっかく一生懸命ナレーションしてくれたのに、眠っちゃってごめんね」
「え?」
「清水 祐也(しみず ゆうや)くん。ネームプレートに書いてあるから、解ったよ」
『皆様、『銀河』へようこそおいでくださいました。わたくし、今回の上映のナレーターを務めさせていただきます、清水 祐也です……』
上映開始時に自己紹介をした男性と、同じ名前のネームプレートが制服に付けてある。
その上、声も同じだ。
和正が彼の名前を当てることは、簡単だった。
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