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第三章・8
和正は、祐也と食事をした後で、コーヒーを一杯飲んでアガメムノンへ向かった。
(今夜は、眠らない。そして、キスする。うまく行けば、その後……)
決心を固め、門をくぐった。
しかし、和正を待っていたのは無常な現実だった。
「申し訳ございません。すばるくんは、ただいま接客中でして」
頭をハンマーで殴られたような気がした。
(清水くんが、他の男と……!)
ふらふらと、外へ出た。
『来てくれたんだね、ありがとう!』
優しい祐也の声が、和正の耳に甦る。
だが、今その言葉は、別の誰かに向けられているのだ。
「2時間後、か」
独りでカラオケボックスに籠り、一曲も歌わず時間だけを費やした。
ノリのいい流行歌が流れる中、ただひたすら耐えた。
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