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   カツカツカツ、とヒールを鳴らして歩く白銀の髪の美しい青年は、王国騎士団第二部隊エースのノエル・リーンシェントその人である。  陶器のように滑らかな肌、月光をまとう白銀の髪、深い海を思わせる蒼い瞳。王国に多い黒髪や茶色の瞳とはかけ離れた色彩は異国の血を感じさせる。  あるべき場所にバランスよく配置されたパーツは、芸術品のようだ。細い首や手足は、騎士と言うよりも貴族のお坊ちゃまと言われたほうが納得できる。 「ノエル・リーンシェントです。失礼します」  王国騎士団は第一部隊から第十三部隊まであり、数字が少なくなるほどエリートとされ、十八歳で第二部隊にまで登りつめたノエルは剣の天才であり、実力主義の騎士団では才覚を表していた。  魔物の討伐や、反国家勢力の制圧に日々明け暮れる中、休日に呼び出しを受けるのは非常に珍しいことだった。 「わざわざすまないな。君に頼みたいことがあってだな」  がっしりとしたガタイの隊長の横に、ローブを纏った妖しい人物が立っている。  ローブの裾には金糸で細やかな刺繍が施され、それが王国に認められた数少ない魔術師に与えられる紋章だとわかった。 「彼は王国指定魔術師のアイル・シーラ殿だ」 「はじめまして。君の噂は聞いているよ。将来有望な剣の天才なんだってね。隊長殿、説明は僕からさせてもらうよ」  簡単に言えば、王国の北にある深淵の森の生態調査に行くアイルの護衛をしてもらいたいということだった。  深淵の森は、背の高い木々が生い茂り、天候や気温によっては霧が立ち込めることもある。  歴戦の猛者ですら命を落とす可能性のある危険な森だ。冒険者はSランク級でなければ足を踏み入れることも許されない。  ノエルも二、三回しか立ち入ったことがなかった。それも、森の外側の警備くらい。深いところまでは行ったことがない、未知の領域だ。 「なぜ、私に? 腕の立つ者ならもっといるでしょうに」 「本当なら、護衛してくれるはずだった騎士が怪我をしてしまってね。他の騎士は任務が入っているし、深淵の森での護衛を任せられるのが君しかいなかったからだよ、ノエル君」  にっこりと、笑みを浮かべる男は造形が整った顔をしている。  艶やかな黒髪を背の中ほどまで伸ばし、うなじでひとつにまとめている。アメジストをはめ込んだような紫の瞳はキラキラと光を吸収して、妖しげな雰囲気を放ち、どこか女性的な柔らかさもあった。 「本来なら、騎士を三人はつけたいところだが、リーンシェントなら大丈夫だろう。近頃は魔獣も大人しい。深淵の森も静かだと報告を受けている」 「……わかりました。謹んで、拝命いたします」 「もし戦闘になっても、僕も手助けするから安心してね」  どこか胡散臭い、美しい魔術師に溜め息を吐いた。  

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