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意識を取り戻したとき、甘い香りと粘液に浸かった身体、そして膨れ上がった胎に夢じゃなかったと絶望した。
後ろ孔には一番太い触手がタマゴが溢れ出てこないように栓の役割をしており、触手の針が突き刺さった乳首は真っ赤に腫れあがっていた。
「う、は、ぁ、はぁ、」
手首は解放されており、上体を起こそうと手をつくが上手く力が入らなかった。
「――、――!」
朦朧とする意識の中、遠くから声が聞こえる。
彼だ、アイルだ! 絶望の中に一筋の希望を見出したノエルは、ひりつく喉から無理やり声を絞り出す。
「ッまじゅ、つし殿……! アイル殿っ!!」
瞬間、眩い光が視界を遮り、冷たい空気が肌を撫でた。
「アイル、どの、アイル殿ッ……!」
胎が苦しい。情けない。悔しくて涙が溢れそうだ。
「助けて――!」
「囚われの姫は王子様が助けるのが定石だけど、僕なんかが王子でいいのかな」
「あいるっ、」
「はいはい、待ってね、ちゃぁんと助けてあげるから」
伸ばした手を、しっかりと掴まれる。ずるり、と引き寄せられた身体を抱きしめられて、彼の声に、なぜか安心してしまった。
「うっわ、どろどろだねぇ、捕食というよりかは苗床にするつもりだったのかな」
「う、うぁ、」
「ん? どうしたの?」
「は、腹の中にっ」
裸体をさらけ出して、震える指先で腹を撫でた。
目線を下ろしたアイルは、ぽっこりと膨れた胎に「あちゃー」と言う顔をする。
「すでに苗床にされちゃったってことか。……ノエル君、少しの間我慢できる?」
「が、まん?」
「ううーん、とっても可愛い。……じゃなくって、僕の研究室に向かうよ。そこでタマゴを取り除こうね」
頭の中はぐちゃぐちゃで、胎は苦しいし、気持ち良いのに気持ち悪くて、自分で立って歩くことすらままならない。
べしゃり、と地面に崩れ落ちて、その衝撃にすら背筋が甘く痺れた。
粘液でドロドロの身体は赤く火照り、涙の滲んだアイスブルーの瞳は、初対面のときと印象が変わり甘く蕩けて情欲が燻っている。白銀髪は肌に張り付き、快感を堪え、唇を噛み締める横顔は酷く扇情的だ。
素肌を晒すノエルの肩にローブをかけて、人よりも大きな花の中にぐちゃぐちゃになって取り残された騎士団の制服を取りに行く。
破けてしまったところはどうにもならないが、浄化魔法をかければ汚れは綺麗になるだろう。
服を着る――気力はないか。可哀想だから早く胎のナカのタマゴを取ってあげなくては。
「抱えるよ」
「ぁ、」
小さく声を漏らしたノエルに変な気持ちになる。
性には淡白なほうだが、不能というわけじゃない。
腕の中で小さくなるノエルはとっても魅力的だが送り狼になるつもりはない。
人ひとり抱えての空間転移魔法は簡単じゃないが、アイルは王国に認められた魔術師のひとりである。あくびをしながら一軍隊を制圧できる力を持っているのだ。
ノエルを抱えての空間転移なんて一瞬だった。
白く霧の漂う森からふたりの姿はかき消えて、生命活動の終了した巨大な花だけがその場に残された。
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