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むしろ逆

 いつもは平和的で二重の眠そうな目が、今は底なし沼みたいに淀んでどろどろして見えた。  こいつは根暗なクソオタクで、大人しくて、もし幼なじみじゃなかったら、タイプが違いすぎてお互いにわざわざ関わろうとはしなかったと思う。 「な、んで……?」  けれど実際は、長年、俺と一緒にいた。  その年月は伊達じゃないようで、だからこそ、伝わるものもあった。  兼嗣は、わざと殴られたのだ、と。  避けようと思えば避けられたのだと、直感的に理解する。  微動だにせず怒ったような暗い顔の兼嗣に、これから先の行為を示唆しているようで。狼狽えたせいで対応が遅れた。 「なんでだよっ! なんで……っ? いやだっ、お前と、こんなことしたくない……っ!」  悲鳴じみた潤んだ声が迸る。  泣いてはいないのに、裏切りに悲観する心情がそのまま声色に出ていた。  行為を続行しようと近づいてくる顔面を遠ざけて、仰け反るように顔を背けたら、ぐっと身体を使って押し倒される。  拒絶に伸ばした腕は兼嗣の手によってシーツに沈んで、覆い被さるやつの力強い重みを全身で受けとめた。 「ぃ……や、だぁっ! まじで嫌なんだよっ、分かれよ……っ!」  もう身体が、四肢が全て自分より大きいから、重いし、圧迫感がすごい。  それでも抜け出そうともがいたら、開いた足の間にいる兼嗣と下半身が擦れ合う。  何も纏っていない俺のが乾いた硬い布にごりごり当たり、不快感に腰が引けたとき、追い縋ってきたやつのそこが熱くなっていることに気づいて、さあっと肝が冷える。 「……俺はずっと、この日を待ってた」  上気した頬、甘ったるい低音の声。  熱に浮かされたような恍惚とした笑みに、絶句する。  俺とは、正反対だと思った。

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