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最終話

「僕だってジョンが怒ったりしないのは分かっていると、言い返した」 「うん。 それで?」 「…それで…ディーン・ウィンチェスターはにっこり笑った。 他人の恋愛のことなのに自分のことのように嬉しそうに。 そしてまた言った。 別に焦る必要は無いんだ、と。 それが二人の速さなんだから、と。 別に謝らなくったっていい、ドクターのあの丸い頭にキスして「また今度」って言って抱き合って眠ればいいんだよ、と。 それから最後に、そのくらい天才シャーロック・ホームズなら簡単だろって言ってウィンクした」 ブスッとしたままのシャーロックに、ジョンがやさしく「ああ、そうだな」とだけ言って、また泡を掬い、シャーロックの頭をわしゃわしゃと泡まみれにした。 雪崩込む様にシャワールームに入るホレイショとディーン。 頭から降り注ぐシャワーの音と、ホレイショとディーンの舌が絡まる湿った音が響く。 キスの途中でディーンが「も、立ってらんない…」と言って床にペタンと座り込み、「ホレイショ…」と呟くとホレイショの雄を咥える。 ディーンのぷっくりした唇に入り切らない雄を、ディーンは必死に喉の奥まで吸ったり舐めたりを繰り返す。 シャワーの水滴がディーンの長い睫毛をダイヤモンドの様に彩る。 ホレイショの雄が力を増す。 ディーンは「…ああん…おっきい…すき…」と言って、チラリとホレイショを見上げる。 その可憐な色香。 ホレイショは舌打ちしそうになるのを我慢する。 そして舌打ちをする代わりにディーンを支えて立たせる。 「…ディーン…ベッドで散々泣かせて…もう終わりにしてやろうと思ったのに…君のせいだぞ」 そう宣告すると、ディーン抱きを抱えてディーンの蕾に雄を突き刺す。 「…アアッ…!」 ディーンの身体は自分の重みで、ホレイショの雄を深く深く咥え込む。 ホレイショがディーンの尻をがっちり掴み、ゆさゆさと上下に揺さぶる。 ポタポタと蕾から滴る白濁は、ベッドでホレイショが放ったものだ。 ディーンはしっかりとホレイショの首に腕を回し、とろんとした瞳で自分の唇を舌でゆっくり舐めると言った。 「…ホレイショ…もう一度…俺の中に出してくれるんだろ…?」 「ディーン…!」 ホレイショの理性はとっくに焼き切れているというのに、まだ残っていた『何か』さえ、ホレイショの頭の中で切れて消えていくのを感じた。 それからホレイショはディーンの願い通り、ディーンを抱き上げたまま激しくディーンを蹂躙し、達した。 ディーンは瞳を閉じて、ぐったりとしている。 ホレイショはディーンをゆっくりとバブルバスの湯の中に下ろした。 そしてディーンが沈まないように自分も湯の中に入り、後ろからディーンを抱いてやる。 ディーンは気持ち良さそうにホレイショに身を委ねている。 ホレイショは手の平でお互いの身体をさっと撫でた。 明日の朝、しっかりとシャワーを浴びれば良いだろうと判断して。 すやすやと寝息を立て出すディーンをバスタオルで包み、ベッドに運ぶ。 ホレイショもベッドの脇でバスタオルで身体を拭くと、そのままベッドに入った。 ディーンに腕枕をして抱きしめる。 少し湿った二人の身体はしっとりと吸い付く。 そのままホレイショは眠りに落ちた。 そうして何時間経っただろうか、ふとホレイショは目が覚めた。 腕の中にも隣りにもディーンはいない。 慌ててバスローブを引っ掛けベッドルームを出ると、微かに風を感じた。 風が来る方向に歩いて行くと、バルコニーに続くドアがほんの少し開いていた。 ホレイショが静かにドアを開けると、バスローブ姿で裸足のディーンが立っていた。 ホレイショが後ろからディーンをそっと抱きしめる。 ディーンがまだ夜明けを迎えていない、霧にむせぶ暗いロンドンの街並みを見渡して言う。 「いかにもロンドンって感じだよな」 「ああ、そうだな」 ディーンがホレイショの腕の中でくるりと振り返る。 ディーンが上目遣いでホレイショを見る。 「ホレイショにお願いがあるんだけど」 「何だ?」 「この部屋はロンドンを一望出来る。 明後日、マイアミに帰ったら…また暫くお別れだろ? だから観光なんてしなくていい」 ディーンはそこで一旦言葉を切ると真っ赤になって続けた。 「一秒でも長くホレイショと一緒にいたい…。 駄目かな?」 ホレイショがフッとやさしく笑う。 「わがまま王子様に俺は逆らえないことを知ってるだろ? 君のしたいようにすればいい」 「ホレイショ…!」 感動して目を見開くディーンは、暗がりであっても眩しい程に美しいとホレイショは思う。 「それじゃあ俺からもお願いがある」 「なに?」 「マイアミに戻ったら2~3日残らないか? 俺の家に」 「いいのかよ?」 「いいから誘っている」 ディーンがパッと花が咲いたような笑顔になる。 その唇にホレイショがキスをする。 鼻先が触れる距離でディーンが「約束だかんな?」と笑う。 ホレイショがまたディーンの唇にキスをして、「約束は守る主義だ」と甘く囁く。 「愛してる…ホレイショ」 「俺もだよ、ディーン」 そして二人は深いキスを交わした。 金曜日、正午。 ホレイショとディーンは、221Bの二階のキッチンのテーブルに着いていた。 テーブルにずらりと並ぶのはジョンとハドソン夫人の手料理だ。 忙しなく動いていたジョンとハドソン夫人が席に着くと、ホレイショが「わざわざありがとうございます」と言った。 ハドソン夫人が「いいえ!友人が去るのにお料理を振る舞えて、こちらこそ感謝しますわ」と涙ぐんで答える。 すかさずディーンが「ハドソン夫人、また会いにくるから!そうだ!ハドソン夫人がマイアミに来てもいいじゃん!」と言ってウィンクを飛ばす。 きらきらきら。 ディーンのきらきらにジョンが何とか踏み止まり、赤ワインが入ったグラスを掲げ、「ケイン警部補とディーンとの出会いに乾杯!」と言う。 皆のグラスがカチンと合わさる。 するとシャーロックが赤ワインを一口飲むと席を立った。 「おい、シャーロック! 失礼だぞ!」 ジョンが早口で捲し立てるが、シャーロックは優雅にバイオリンを掴んだ。 そしてディーンとホレイショを見て言った。 「僕は君達と別れるのは寂しくない。 なぜなら僕達は物理的に会おうと思えば会えるからだ。 ただ君達に聴かせたい曲がある。 金曜日に皆でランチを取ろうとジョンが言い出した時から、僕の『精神の宮殿』に流れ続けている曲だ。 ピアノはパソコンで打ち込んだものだが我慢しろ。 この曲はバイオリンソロでは無いからな。 ではベートーヴェン、ロマンス、第2番」 そしてシャーロックの演奏が始まる。 甘く、切ない、ロマンスが、221Bに響く。 すると突然ディーンが大粒の涙をポロポロと零し出した。 ジョンとハドソン夫人がギョッとしていると、ホレイショがディーンの肩をやさしく抱いた。 「どうした?ディーン」 「…ホレ…ホレイショが…あのパーティー会場で首をナイフで刺された…。 バルコニーで…白百合のブーケが落ちて…シャンパンフルートが割れた…」 「何を言ってる? 君はパーティーで楽しそうだった。 俺はこうして元気だ。 嫌な夢でも見たのか?」 「わ、分からない…でも…!」 ディーンの唇をホレイショの唇が塞ぐ。 ジョンとハドソン夫人が同時に両手で顔を覆う。 シャーロックの演奏は何事も無く続く。 ホレイショの唇が離れる。 ホレイショがディーンの顔を両手で包む。 「ディーン…。 君は白昼夢を見る程、俺を心配してくれているんだな。 嬉しいよ。 でもドクターに動画を送ったテロリストは単なる脅しを楽しむ腰抜けだ。 俺に危険は何も無い。 危険なのは君だ」 「…俺…?」 ディーンの滑らかな頬を転がり落ちる真珠のような涙。 「そう。 俺はいつだって君を手放せなくなる。 君は魅力的で危険な愛する人だ」 「…ホレイショ!」 ディーンがホレイショに抱きつく。 ホレイショがディーンの背中をやさしく撫でる。 ロマンス第2番が流れる中で。 そして二時間程の昼食会は終わり、空港まで余裕を持って行きたいからとディーンとホレイショは221Bから去って行った。 ディーンはジョンにこっそり「シャーロック・ホームズさんと上手くいったら連絡くれよ!」と言った。 ハドソン夫人はディーンとホレイショと別れの挨拶をする時は泣かなかったが、ディーンとホレイショを乗せたハマーが視界から消えると、「本当に綺麗でかわいいボーイだったわね」と言って涙を零し自室に入って行った。 シャーロックとジョンも無言で二階のリビングに戻った。 するとシャーロックが唐突に言った。 「ジョン、君とハドソンさんは、ホレイショ・ケインとディーン・ウィンチェスターのキスシーンをつぶさに見てただろう? 指の隙間から」 涙の滲んだ瞳をまん丸くしてジョンが「はあ!?」と声を上げる。 「僕が気付かないとでも? ホレイショ・ケインも気付いてたぞ。 それにハドソンさんはスマホで画像も撮っていた」 「だ・か・ら!」 ジョンが怒鳴る。 「なぜ君は今そんな事を言うんだ!? 明日言ってもいいだろ!? 今はディーンもケイン警部補も居なくなって、僕とハドソンさんが寂しいのは本当だ! ののの覗き見したなんてムードを壊す様な事を言うな!」 「ムード? 感傷に浸っているだけだろう?」 ボスッ。 ジョンのパンチがクッションにめり込む。 「……悪かった、ジョン」 「分かれば宜しい」 ジョンはフンとシャーロックから顔を背けると、パソコンの前に座る。 「何をするんだ?」 「ブログを書くんだよ! 今回は番外篇だ! ディーンとケイン警部補のロンドン探検談だよ」 「探検って…あの二人は観光もせずに部屋に籠ってセックスをしてただけだろう?」 ジョンがシャーロックに向かい歪んだ笑顔を浮かべ、握り拳を見せる。 「……悪かった、ジョン」 「分かれば宜しい。 それに始まりは君とケイン警部補が銃を突き付けあって、ポルノ動画の爆弾予告に捜査、晩餐会にケイン警部補の素晴らしい講演も書きたいし…何よりディーンの魅力も! そうだよ! それに愛!」 「愛?」 顔を顰めるシャーロックを完全に無視して、ジョンが瞳をキラキラさせて続ける。 「あの二人の愛だよ! 素晴らしくロマンチックだ! あ~悩むなあ…」 「何を?」 「タイトルだよ!タイトル! あの二人にピッタリのを付けたいんだ!」 「ふーん…」 シャーロックが立ち上がりバイオリンを手に取る。 「『ラブ・ラビリンス』なんてどうだ? 愛の迷宮。 あの二人に振り回されて迷宮に迷い込んだ気分だ」 ジョンがボソッと「…ディーンに一番影響受けたくせに…」と呟く。 シャーロックは何も反論せず、バイオリンを弾き始める。 ベートーヴェン、ロマンス、第2番を。 マイアミ空港は照りつける太陽で輝いている。 ディーンは飛行機恐怖症を起こすことも無く、飛行機から降りた。 ディーンはホレイショに、三日間何をしようかと楽しげに計画を立てては、片っ端からホレイショに話していた。 ホレイショはどんなディーンの計画にも「イエス」と言ってくれると分かっていたが、ディーンは話さずにいられなかった。 二人で荷物を受け取り、空港の出口をくぐったその時、ホレイショのスマホが鳴った。 ホレイショが「失礼」と言って電話に出る。 ホレイショのポーカーフェイスをディーンはもう見抜ける。 ホレイショは一言二言返事をすると、スマホをジャケットに仕舞い、「すまない」とだけ言った。 ディーンがにっこり笑う。 「うん。 早く行けよ」 「ディーン…」 「いいから! 俺の恋人は正義の味方なんだから! これでも俺、理解あるぜ? また連絡して。 じゃあな!」 ディーンが笑顔のままホレイショの横を通り過ぎ、駐車場に向かう。 泣くな、俺… このまま 別れれば 『良い恋人』でいられる でも ディーンが振り返った瞬間、ホレイショに抱きしめられる。 ホレイショの首筋にディーンの涙が伝う。 「ディーン…愛してる」 「知ってる」 そして二人は触れるだけの小さなキスを交わし、逆方向に向かって歩き出した。 ディーンがカンザス州にある賢人の基地の扉を開ける。 するとカスティエルが数センチ目の前に現れた。 「うわっ! 何だよ!?」 「ディーン! 起きられたのか!? 外に行って何をしてた!?」 「あ、えーと…」 ディーンが『散歩』と続けようとしたら、ディーンの後ろから「あら、ディーン!折角お見舞いに来たのに元気じゃない!」とロウィーナの弾んだ声がした。 「よっ!兄弟! なーんだ元気じゃん!」 チャーリーの声もする。 ディーンが扉を抑え「まあ…入れよ」と言うと二人はサーッとディーンの前を通り過ぎ、カスティエルの両脇を掴んで走り出す。 「ロウィーナ!? チャーリー!? 何をする!?」 「あら、いいじゃない。 ディーンの回復祝いにパーティーしましょうよ。 あんたも手伝って」 そう言うとロウィーナは、素早くディーンに向かって振り返りウィンクする。 チャーリーも「恩寵はナシで手料理だよ!」と楽しげにカスティエルのトレンチコートごと腕を引っ張る。 カスティエルが「分かった。ディーンの為ならやろう。そんなに強く掴むな!」と言ってディーンに助けを求める様に振り返る。 ディーンがニコッと笑い「キャス、期待してるぜ」と言うと、カスティエルは大きく頷き、逆にロウィーナとチャーリーを引き摺る勢いで走り出す。 三人がギャーギャー言いながらキッチンに消える。 ディーンは放り出されたままのロウィーナとチャーリーの荷物を持つと、階段を降り、基地のデスクに触れ、「お帰り、俺」と呟くと、自分の部屋に向かうのだった。 ―――サムが『強制的』な眠りから起きたことも知らずに。 ~fin~

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