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第1話

   「生徒会会長、天城 大雅のリコールをここに宣言する。」  ザワッと生徒達のざわめきが広がり、 どういう事?やっぱり?と言うような驚きの悲鳴や呟き、様々な声が聞こえてくる。  暑いな…とネクタイのノットに手をかけ、 緩めたのはステージ上の自分を除く生徒会役員達からリコールされた天城 大雅その人だった。  栗色のフワッとした柔らかい髪に榛色の瞳はやや垂れ目気味で目尻の泣きぼくろがまた色っぽいと揶揄される。 長い手足にしっとりと引き締まった体。 高校2年生である彼の身長は180cmに届かないくらいだが、十分にスタイルが良い。 頭脳明晰、リーダーシップもあり、そんな彼を周囲は純粋に憧れの目で見ていたり、抱かれたい、抱きしめてめちゃくちゃにしたい、されたいという欲望を持ってみたりと良くも悪くも注目を集める存在であった。  そんな彼だから、意図せずとも周りにいる彼等にとってはほんの少しの動作でもゴクリと喉を鳴らさざるを得ないようななんとも言えない妖艶な仕草に見えるのだった。  本人にとってはそんな周りの感情など意に返さず、肩から荷が降りた… とばかりに緩めたネクタイと同じように… 少しだけ…頬を緩め、ホールに背を向け振り返りもせずに出て行った。  その瞬間、ホールにいた生徒達は勿論、 壇上にいた役員達も含めそれまでの喧騒を忘れたかのように彼を見つめ、その後ろ姿に頬を染めるのだった。  ここ桜咲学園は山奥にある中高一貫教育の全寮制男子校で所謂金持ちの子息が集まる学園だ。  学園内では生徒会役員と各委員会の委員長が権力を持ち、将来の社会の縮図として自分達の能力で学園の運営を担っている。  生徒会に拮抗した権力を持っているのが風紀委員。  学園内の治安秩序を守っている。  治安秩序とは…  思春期に入る頃に男だけの生活だからなのか隔離されたこの学園内では、普通の感覚を忘れたかのように人気のある人には親衛隊がつき、男同士なのにも関わらず恋愛したり、遊びの関係になったり…と一時の感情に流される奴らも多かった。  それに伴って無理矢理といった事案も横行し、風紀委員が見回り対応している。自分の身を守る事が難しい場合は親衛隊に入る…という暗黙のルールもできていた。  そして、王道学園テンプレよろしく時期外れにも関わらず一学年下に転入生がやってきて生徒会役員は転入生にかかりきり…いや…つきっきり…いや、夢中になり学園の運営はめちゃくちゃになったのだった。 「本当に良かったのですか?」  ホールを出て寮へ向かう途中、後ろから声がかけられた。 「あぁ、…そうだね…」  足を止めて、声をかけてきた人物へと向き合う。 「君達には迷惑をかけるけど、ごめんね?」  少しだけ困ったように目を伏せて自分の親衛隊隊長であった3年の野宮 実里に微笑んだ。 「そんな… 迷惑など!……」  胸元でギュッと手を握り締め、それ以上は口から何も出てこない実里へ 「なるべく早めに他の親衛隊に入れてもらって。  風紀の方にはしっかり話しておいたから」 「…大雅様……」 「明日から僕も一般の生徒達と変わらないからね、友達としてよろしくね」  ニコリと微笑み、頭にポンと手を乗せる。  実里の顔は真っ赤になり潤んだ瞳で大雅を見上げていた。 「あ、皆にも伝えといてね。じゃ」  軽く手を上げ話は終わり、とばかりに背を向け歩き始めた。  生徒会会長という任を解かれた大雅の親衛隊は一度解散しないといけない。  リコールされたという汚名を被った大雅は明日から今までのSクラスではなく一般以下のFクラスに通う事になる。 「楽しみだなぁ…」  ニコリではなくニヤリと笑っている大雅の背中を、実里はそんな表情だとも知らずに真っ赤な顔で見送った。  

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