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第8話・生け贄は蜜に溺れる(前編)

 ◆  まだ未の刻四つ(午後一四時)。  太陽は分厚い雲に覆われ、薄暗い。 「こちらでございます」  巫女の姿をした彼女は突如として現れ、明かりとして右手に提灯を手にしている。  色白で細身の女はにこりとも笑わずそう言うと、池の畔にある祠へと、ひとりの()の子を案内(あない)した。  男の子の年は一六。  身長は一六五センチと年頃の子供よりもやや低めである。  華奢な身体には白装束で身を包んでおり、長い睫毛に守られた大きな目は愛らしく、ふっくらとした唇をしている。  肩まである漆黒の髪は外に跳ねている。その容姿は少女と見紛うほど可愛らしい。  名は菊生(きくお)。  池の畔に住んでいる付喪神への献上品だ。  菊生は滅多なことでは中に入ることができない社の拝殿に案内されると、巫女はいつの間にか姿形もなく消え失せていた。  十畳ほどのそこは一切の明かりがなく、薄暗い。  菊生以外、誰の姿も居なかった。  自分はたしかに付喪神への生け贄としてやって来た。  なぜ誰もいないのだろうか。  不安なまま見回していると、誰の姿も見えないのに、勢いよく背後の扉が硬く閉ざされた。  姿形こそ見えないが、おそらくは付喪神がこの場に居るに違いない。  付喪神。  その者は、この村では邪な人間の煩悩などからできた神だ。  この社はその神を鎮めるために作られたものだった。  普段は大人しかったはずの付喪神だが、心ない村人が社を傷つけたせいで怒り、不作続きとなってしまったのだ。  その怒りを鎮めてもらうため、村人らは苦肉の策として贄を用意したのだった。  その贄というのが――流行り病にかかり、両親を亡くした身よりのない菊生である。  どうせ生きていても仕方のない身の上ならばと、彼は自らこの役を買って出た。  もう、自分に逃げ道はない。  いくら覚悟してきたとはいえ、怖いものは怖い。  小さな身体が小刻みに震えている。  するとふいに、素足に滑りを帯びたひんやりとした感触の何かが絡みつき、菊生の身体はあっという間に宙に浮いた。 「ひ、あ!!」  驚いた菊生は声を上げ、視線を少しずらせば奥の襖が僅かに開いているのに気がついた。  襖にも座敷があるのか、隙間を覗けば薄暗い。  自分の身体を見下ろせば、自分に絡みついているものが僅か一寸(3ミリ)ほどの触手であることが判った。  そうこうしている間にも奥の方からずるずると、また別の触手が伸び出でて、菊生の細い腕や足、胴体に絡みつく。 「あっ! ひっ!」  足掻けば足掻くほどに、伸びてきた触手は菊生の身体にまとわりつく。  それぞれの触手の先端はやがて胴体に向かって這いはじめる。  両手首を固定していた触手は二の腕を通り脇へと移動して新たな触手と交わって胸部へと進み、両足首にあった触手は膝裏へと進んで折りたたむようにして固定した。  仰向けのまま、両手は頭上に、膝は折り曲げられ、開脚した体位で宙づりにされてしまった。  菊生はまるで捧げ物にされるかのように、僅かに開いた薄暗い部屋へ向けて下肢を広げるような状態で浮いているからさらに恐怖心が煽られる。  そんな菊生を嘲笑うかのように、新たな触手が奥から伸びてきた。  着物の裾を抜け、太腿を縫って侵入したそれはやがて菊生の腰に絡みつき、陰茎を絡め取る。 「っひ!」  菊生は付喪神にその身を捧げるため(みそ)ぎをした後だったから、当然下着さえも身に着けていない。  男の子として最も恥ずかしい箇所に触れられた菊生は声を上げた。  しかし触手の動きは止まらない。  脇に纏わりつく触手は懐の裾を割り開き、上半身を露わにさせた。  柔肌の上に乗る、菊生の小さな赤い乳首が剥き出しになると、また新たな触手が飛びついた。  まるで吸盤でもあるかのように、先端を開いた触手は菊生の両乳首に吸いついた。  触手の先端は器用に菊生の乳首に吸い、あるいは練り込み、刺激を与えていく……。 「っひ!!」  ひんやりとした滑った感触が菊生を攻める。  男の子の自分は娘とは違う。  そこを弄られても感じないはずだ。  しかし、どうしたことだろう。  乳首を弄ばれていると、次第に身体は熱を持ち、腰が揺れはじめる。  なぜ、そうなるのかは判らない。  しかし菊生はたしかに何かを感じ始めていた。  その証拠に菊生の陰茎はむくむくと膨れはじめ、静かに勃ち上がりを見せている。  菊生の状態を感知したのか、襖の奥から太い触手が奥から飛び出した。  菊生の口内に侵入する。 「っふぅうう、っぐ」  恐怖で息ができず、触手を噛むと、そこからじんわり何の液が噴射した。  菊生は訳もわからず嚥下してしまう。  すると身体の奥から燃えるような熱が宿りはじめたことに気がついた。  それが一種の媚薬だということを知ったのはその後すぐのことだった。  未だ触手にこね回され続けている乳首から、甘い痺れにも似た感覚が宿りはじめたのだ。  その痺れはやがて疼きとなり、肥大していく。 「んぅ……」  口内にあったそれが菊生の舌に絡みつく。  ねっとりとした冷たい触手が熱い口内を蹂躙する。  その温度が心地好い。  菊生は図らずしも腰を揺らしはじめた。  すると触手はさらに大胆になる。  乳首を弄っていた触手は尖りはじめた乳頭に絡まると、強く引っ張った。 「あっ、やっ、やだっ!!」  本来ならそれは痛みを生むばかりの行為は、しかし媚薬を飲んだからなのか、甘い疼きへと変化している。  菊生は甘い嬌声を上げながら自ら腰を揺らす。  陰茎は今や熱を持ち、先端からは雫を漏らしていた。  それを舐め取るかのようにして、また新たな触手が飛び出し、根元から先端へと器用に移動する。  まるでその手で菊生の弾き出す雫を絞ろうとするかのような動きだった。  その力の強弱は絶妙で、菊生を惑わすものにしかならない。  自慰さえも知らない清らかな菊生は、初めて与えられる快楽に戸惑う。 「っひう、あっ、あっ!!」  絞られるたびに菊生の濃い液が亀頭を飛び出し、円を描く。  その様を愉しんでいるかのように、両太腿に絡みついていた触手は陰嚢を包み込んだ。 「あ、っぐ、はあ……あ」  菊生の口内さえも蹂躙する触手は何度も舌体を擦り上げ、舌根に吸い付いたりと執拗な動きを見せるから、閉ざすことのできない口からは唾液が溢れて滴り落ちる。  もはや嬌声しか声を上げることができない。  どうにかこの触手から逃れようと身体を動かせば、その意思を阻止するかのように、針の糸ほどの細い触手が新たに這い出た。  菊生の陰茎を目掛け向かった触手は亀頭を見つけると割れ目から侵入していく……。 「あっ、っひぅうう……あああっ!!」  中を責められ、本来なら痛みを感じるはずのそこには媚薬で麻痺している。  さらに中へと進むと、前立腺の膨らみに辿り着いた。  触手は前立腺を押し広げたり回転したりを繰り返した。 「あ、あああ……あ、ああ……」  あるのは強烈な疼き。  ただそれだけだ。 (達したい)  菊生がそう思った時、前立腺を弄る触手が抜けた。  同時に陰嚢を包む触手の動きがさらに速度を上げた。

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