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第17話
二日後・・
「申し訳ございません・・すっかりお世話になってしまって・・」
「気にすることはない。少しは落ち着いたか?」
「ええ・・おかげさまで・・何とお礼を申し上げればよろしいのか・・」
深々と頭を下げる梨皛 の隣で、寝台から上体を起こした桃花 もまた同じように頭を垂れている。
「いいよ。気にしないで。それよりも少しでも楽になったのなら・・よかった」
ホッとしたような表情で奏幻 が二名を見る。その視線を受けてなのか、夫妻は互いに顔を見合わせると遠慮がちに微笑んだ。
会議が始まる日に合わせて診察を受けていた桃花であったが、少しずつ体調が良くなったこともあり、奏幻が茊芪汕 への帰還を許可したのである。
「馬や馬車も考えたけど、どうしても揺れるから体調の事を考えるとやっぱり負担の方が大きいと思う。だから、今回は絽玖 に来てもらう事にしたよ。梨皛も、納得はいかないだろうけど、今回は飲み込んでほしいな。」
「なんだか・・申し訳ないですわ・・絽玖様に来ていただくなんて・・」
視線を落としながら話す桃花の表情が僅かに曇る。その表情を眺めながら寝台の隣に腰を下ろした梨皛がそっと桃花の側に寄り添った。
「・・大丈夫だ。何も心配しなくていい」
「ええ。頭では分かっているのだけど・・」
遠慮がちに話す桃花の表情には影が差している。
梨皛は彼女の肩を優しく撫でていた。
「桃花」
「・・・?」
寵姫の声におずおずと顔を上げながら、桃花が首を傾げている。そんな彼女を落ち着かせようと、寵姫 は声に空気を含ませた。
「案じることはない。お前たちが一緒になる時に九十九 も絽玖も何も口を挟もうとはしなかった。・・紅絇 は違っただろうが・・」
そう話す寵姫の脳裏に数年前の出来事がふと甦る。
婚姻の義を結ぼうと、梨皛が桃花と共に九十九の所へ足を運び、九十九の許可を得て今度は絽玖の所へと行こうとしたその時、美しい髪と南京錠を振り乱しながら紅絇が激怒したのだ。
その怒りは凄まじく、塵煙 と蝙蝠 族の皆が数名がかりで押さえつけなければならなかったという。
今となっては伝説的な出来事ではあるのだが・・。
『まぁ、揉めるとは思っていたが・・今でも納得できていないとは・・』
「ええ・・。あ、あの・・陛下・・」
「ん?」
「お願いが、あります」
「お願い?」
寵姫の声に桃花は一度、梨皛と顔を見合わせると互いに頷いて前を見た。
「無事に産まれたら、その時はこの子に名前をつけては頂けませんか?」
「名前?」
寵姫の声に奏幻も同じように首を傾げている。
「ええ。私たちにとって産まれてくるこの子は大切な子です。ですから・・」
「ありがたい申し出だが、やめておこう」
「寵姫」
「・・・・」
「いや、勘違いしないでくれ。産まれてくる大切な子だからこそ、お前たちが自分で名を考えた方が良い。その方が良いと私は思う」
「・・陛下」
「産まれて落ち着いたら知らせてくれ。顔を見たい」
「・・・ありがとうございます」
頭を下げながら瞳を閉じる夫妻に軽く手を振りながら寵姫は微笑む。
温かな風がそこには広がっていた。
了
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