1 / 40
ゴミ、吸血鬼に拾われる。
明日のことを考えると心が重くなる。
なにかにのしかかられたような、そんな息苦しさに襲われる。
周りは足早にどこかへ向かうけれど、春太にはどこにも行く場所がなかった。
──お前なんかただの穴でしかねーよ。
つい先程言われた台詞に、妙に納得してしまう。
そうか。だから、恋人だと思っていた賢吾は、当たり前のように誰かを家に連れ込んでいたのだと、鈍い頭で考えた。
だって、春太は二番目でもキープでもなく、ただの穴だ。その他大勢の一人にもなれない。
殴られた右頬が痛かった。真冬の夜空は重くて、冷たいものが降ってくる。ふわふわと落ちてきた白いものは、春太の熱い頬に触れると、あっけなく消える。
雪だ。白い雪が、灰色の空から落ちてくる。とても綺麗とは思えない。
春太と同じゴミのようだった。
きっと今頃、どこかの暖かい家では、子供がはしゃいでいるのだろう。
なのに春太はこんな夜更けに、ゴミ置き場に転がっている。
賢吾に殴られた体が痛い。でも一番痛むのは胸だった。
このまま目を閉じてしまえば、明日にはゴミ収集車がやってきて、ただの穴でしかない自分を回収してくれるのだろうか。
それはそれでいいかもしれない。だって、そうすれば明日を考えずにすむ。
そっと目蓋を閉じようとしたとき、影が春太を見下ろした。
「お前はゴミなのか」
灰色の夜空の真ん中に男が居た。神秘的な紫の瞳。夜よりも深い黒髪。ぞっとするほど美しい男だ。
「あはは、ゴミ収集車のおにいさん、めっちゃイケメンじゃん」
言葉が転げ落ちる。しかし男はピクリとも表情を動かさずに言った。
「お前が寝ているのはゴミ捨て場だ。なら、ゴミで間違いないな?」
誰にいうでもなく、美しい人は、当然のように春太をゴミと呼ぶ。いっそ、清々しいほどだ。
「これを拾う。つれていけ」
春太から視線を外して、誰かに命令をしている。その横顔を見上げて問いかけた。
「俺、拾われるの?」
ゆっくりと、男がこちらを向く。二つの紫が静かに見下ろす。
「まだ役に立ちそうだからだ」
「そっか」
最後に美しい男の役に立つのも悪くない。春太はそっと目を閉じた。
ともだちにシェアしよう!