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ゴミ、吸血鬼に拾われる。

 明日のことを考えると心が重くなる。  なにかにのしかかられたような、そんな息苦しさに襲われる。  周りは足早にどこかへ向かうけれど、春太にはどこにも行く場所がなかった。  ──お前なんかただの穴でしかねーよ。  つい先程言われた台詞に、妙に納得してしまう。  そうか。だから、恋人だと思っていた賢吾は、当たり前のように誰かを家に連れ込んでいたのだと、鈍い頭で考えた。  だって、春太は二番目でもキープでもなく、ただの穴だ。その他大勢の一人にもなれない。  殴られた右頬が痛かった。真冬の夜空は重くて、冷たいものが降ってくる。ふわふわと落ちてきた白いものは、春太の熱い頬に触れると、あっけなく消える。  雪だ。白い雪が、灰色の空から落ちてくる。とても綺麗とは思えない。  春太と同じゴミのようだった。 きっと今頃、どこかの暖かい家では、子供がはしゃいでいるのだろう。  なのに春太はこんな夜更けに、ゴミ置き場に転がっている。  賢吾に殴られた体が痛い。でも一番痛むのは胸だった。  このまま目を閉じてしまえば、明日にはゴミ収集車がやってきて、ただの穴でしかない自分を回収してくれるのだろうか。  それはそれでいいかもしれない。だって、そうすれば明日を考えずにすむ。  そっと目蓋を閉じようとしたとき、影が春太を見下ろした。 「お前はゴミなのか」  灰色の夜空の真ん中に男が居た。神秘的な紫の瞳。夜よりも深い黒髪。ぞっとするほど美しい男だ。 「あはは、ゴミ収集車のおにいさん、めっちゃイケメンじゃん」  言葉が転げ落ちる。しかし男はピクリとも表情を動かさずに言った。 「お前が寝ているのはゴミ捨て場だ。なら、ゴミで間違いないな?」  誰にいうでもなく、美しい人は、当然のように春太をゴミと呼ぶ。いっそ、清々しいほどだ。 「これを拾う。つれていけ」  春太から視線を外して、誰かに命令をしている。その横顔を見上げて問いかけた。 「俺、拾われるの?」  ゆっくりと、男がこちらを向く。二つの紫が静かに見下ろす。 「まだ役に立ちそうだからだ」 「そっか」  最後に美しい男の役に立つのも悪くない。春太はそっと目を閉じた。

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