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第2話

   眠りからさめると広々とした寝室にいた。  グレーを貴重としたモダンテイストで洒落た部屋。  そこにある大きなベッドで一人、裸で寝ていたのだ。 「手当してくれたのか」  痛む体には湿布が貼ってある。腫れている頬にもだ。  ──黙って抱かれてりゃあ、いつまでもおいてやったのに。  そう言って、春太を殴りながら犯したのは、恋人だと思っていた賢吾だ。  腹を殴ると、中が締まって気持ちがいい。どうせ捨てるなら、最後にやりたいことをしてからだ。  興奮しながら拳をふるう男の姿は滑稽だった。そんな男を好きでいた自分も。 「あのー」  ベッドからおりて、痛む足を引き摺りながら、リビングへ向かう。  雑誌から出てきたような綺麗でお洒落なリビングに、ちんまりとした頭を見つけた。  黒い大理石の床を進んで、ダイニングテーブルに座る子供に声をかける。 「あのー、俺を拾った人の子供?」  お行儀よく昼食を食べていた子供が振り返った。 「……はい。ルークから、あなたが目をさましたら、しずかに待っているようにと言われました」 「あ、うん」  名前を聞いてやはり外国人だったのかと思った。。目の前の子供も、恐ろしく整った顔をしている。  少しだけアジアの雰囲気がある。母親がそうなのかもしれない。  こうしてつぶさに見つめあっても、ぴくりとも表情を変えない。精巧な人形が口を開いた、そんな印象を受けた。 「俺を拾った男はルークって言うの?」  こくりと黒髪が揺れる。 「貴方のご飯は、このメニューにのっています。好きな物を頼んでください」  シミひとつないダイニングテーブルに置かれた紙が手渡される。  ざっと目を通して戦いた。どれも目が飛び出るような金額だ。 「……い、いや。俺、そんなお腹減ってないからいいや。じゃあ、そのルークさんが戻るまで、あの部屋で待ってる」  どん引きしながら春太が言うと子供は頷いた。  そして、再びカトラリーを手に食事を始める。カチャリと僅かな音がやけに響いた。 「空っぽ」  一流デザイナーが担当したのであろう部屋を相手に失礼だろう。  だが、目には楽しくても何もない。ここには、春太が欲しいものは何もない。  空っぽの部屋だ。

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