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ゴミ、悦楽の熱に困惑する。

   ひと月が過ぎ、あっという間にふた月が過ぎようとしていた。  新しい年を迎える頃には、すっかりテディとも打ち解け合い、ささやかながらも新年のお祝いにおせちを食べた。  もう少し早く打ち解けていれば、クリスマスパーティなんかもできたかもしれない。  そんな風に穏やかな日々を過ごして、みっつめの仕事の存在を忘れていた頃。  春太は突然夜中に呼び出された。 「なんですか?」 「服を脱いで、テーブルに座れ」 「は?」  眠気も飛んでいく。どういうことかと、目を白黒させていると、重たい溜息が聞こえた。 「今日から週に一度、お前の血を飲む。他人の男の匂いも消えたが、他の者とまぐわえばすぐに匂いがつくからやめろ」 「っ、いや、えっ」  言葉を詰まらせるが、ルークは淡々としている。  スーツを脱ぎ、襟をゆるめる。  そして、ダイニングテーブルの椅子に座ると、春太に瞳で命令した。早くしろ、と。 「……裸になる必要、あるんですか?」  もしかして、あの高額な給料にはそういう意味が含まれていたのだろうか?  そんな不安が胸中に広がると、心を読んだかのように、ルークが嘲笑う。 「お前たち人間に劣情など抱かない。所詮は餌でしかない。早くしろ。いつまで待たせる気だ」  酷い言い方だ。吸血鬼がどんなに偉い存在かなんて知りやしない。反発心が芽生える。  けれど、長年の悪癖はそう簡単に意識を変えられない。  紫の瞳に見つめられながら、春太は服を脱ぐ。  橙色の照明が生白い肌を照らした。  薄い胸にあるつんと上向く尖り。もうしわけ程度に生えた陰毛から覗く、ちんまりとした男のシンボル。形のいい小さな尻は、歩く度に煽るように揺れた。 「の、乗りました」  行儀が悪いことをしている。春太は罪悪感と羞恥心を覚えながら、机に腰掛けた。両手で大切なところは隠してはいるけれど、なんとも心もとない。  商品を見定めるように、ルークの瞳が眼前の裸体を見つめた。 「何してる? 足を開け」 「えっ!」  これには声を出して驚愕する。足を開いたら諸々が見えてしまうだろうっ! そんな悲鳴をあげかけて、だが有無を言わせぬ視線に、そうっと華奢な足をひらいた。 「手が邪魔だ」 「うぅ」  最後の守りも奪われた。隠す術は何も無い。全てを晒して、春太の横顔が真っ赤に染まる。金色に染めた髪が、赤い項を唯一隠した。 「契約を結んだときに渡した書類は読まなかったのか?」  震える春太を見上げて、ルークが問いかけた。  動きを止めてしまう頭を必死に動かして、言われたことを咀嚼する。そして、確かに書類を受け取ったことを思い出す。 「見るの、忘れてた」  紫の瞳が馬鹿だと言っていた。 「〜ッ!」  そっと冷たい指が春太の縮こまった性器に触れる。  思わず出そうになった声を噛み殺すと、慌てて身を捩った。 「な、な、なに!?」 「……血は、興奮すればするほど甘くなる。そして、飲む場所は、ここが一番いい」  ルークの指はするりと下りて、春太の足の付け根、内腿を撫でた。  ぶるりと駆ける淡い刺激に、熱い呼気が零れる。 「そ、んなの知らなかった」 「書類を読んでいればわかったことだ」 「うぅっ。……すみません」  呆れた口調に項垂れる。 「腹が減った」  ふと、ルークの瞳が赤く染まった。  春太は溢れでる色気に圧倒される。見下ろす美貌に意識が囚われる。  酩酊感に襲われて、はくはくと息を吐いた。 「すぐに終わる。痛みはない」  ──あるのは、溺れるような快楽だけだ。  耳元で囁かれたように感じた言葉に嘘はなかった。

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